「これまでの手ごたえとして、法哲学、憲法学などの分野は、論理でバチバチやり合っても、SNS論壇のような罵り合いになりません。対面だとお互いの距離も近いこと、また店のコンセプトが『正しいことを言えなくても、分からないことがあっても別に構わない』というスタイルでやっているからだと思います」(山口さん)
今後やっていきたいこととして、「イベントのバリエーションを増やしたい。例えば違う分野の人に同じテーマで対談してもらう企画などをやりたい」と語る。その試みの一つとして、催眠術師と公認心理師の対談イベントを開催した。
「学問バー」には、今日も研究者の卵たちが集い、学問をネタにお客さんとのトークを繰り広げている。そんな研究者の卵たち向けの「学振みんなで絶対通すぞバー」なるイベントも企画されている。
このイベントは、若手研究者を取り巻く過酷な環境のなかで、学振にまつわる噂話、知恵を集め、研究者としてサバイブするために集合知で採用を目指す企画だ。
「学振に通る」とは、日本学術振興会の特別研究員に採用されることを意味する。PDというポジションだと、月額36万2千円が3年間支給される。21年発表の文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査によると、サンプル数は少ないが、修士課程を終えた学生の16.5%が、奨学金などの借入金を300万円以上抱えているとみられるという。研究生活を決定づける大事な申請だ。ただ採用率は、22年度で20.9%と狭き門だ(申請者1705人)。
新宿の片隅には、明るい将来が約束されているとは言えないが、情熱ある研究者の卵たちが集う。歌舞伎町には、今も居場所を強く求める若者たちが集っている。(ライター・本山謙二)
※週刊朝日 2023年4月28日号