「吉田先生」と声を掛ける吉沢さんに対し「『先生』でなくていいですよ」と吉田さん。二人の実直な人柄を垣間見た気がした(写真:写真映像部・松永卓也)
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 歌舞伎役者の半生を描いた吉田修一さんの同名小説を、李相日監督が映画化した「国宝」。稀代の女形・立花喜久雄を演じた吉沢亮さんと、吉田さんが作品について語り合った。AERA 2025年6月9日号より。

【写真】「(横浜)流星には負けない、というモチベーションが生まれた」と吉沢亮さん

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──吉沢さんにとって、「歌舞伎」や「女形」というものの印象は、役を演じる前と後では変わったのだろうか。

吉沢亮(以下、吉沢):この役をいただく前も何度か歌舞伎を観に行く機会はあり、観ている時も「美しいな」と感じていたことはありました。ただ、一般的に考えて男性に「美しい」という感情を抱くことってなかなかないですよね。「魅了される」という領域までもっていくって相当なことだな、と演じてみて改めて気づかされました。

 歌舞伎ではある種の「型」が大事にされるわけで、ごまかしがきかない。映画やドラマでのお芝居と違い、「上手ではないけれど味がある」というものが通用しないんですね。基礎を極めた先にしか本物が生まれない、というか。

吉田修一(以下、吉田):確かに、歌舞伎において「味がある」という表現は聞かないですね。

吉沢:「極める」というのはこういうことなんだな、と。

なぜいま歌舞伎なのか

吉田:今後、海外の記者たちから「なぜいま歌舞伎なんですか?」「なぜ女形を?」といった類いの質問を受けることもあると思います。改めて考えると、歌舞伎が生まれた400年以上も昔から「男性が女性役を演じる」という、ジェンダーの問題に向き合っていた人たちって世界でも稀だと思うんです。遥か昔からこうした問題に向き合ってきた人々の物語でもあると思うので、ジェンダーについて議論が交わされるいまの時代にはぴったりなのではないかな、という思いもあります。

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