津田はいつも必死で全力

 津田はこの器が極端に小さいタイプの人間だ。いや、小さいというより、そもそもコップが存在しないのかもしれない。ちょっとしたことですぐに水があふれ出してしまう。つまり、彼の場合、外側に見えているのが彼の内面そのものなのだ。

 過酷なドッキリ企画ですぐに音を上げたり、不満を漏らしたりするのも、感情を内に貯めておける量が極端に少ないからだ。イジられキャラとして活躍する芸人の中には、実際に水があふれていなくてもあふれているように振る舞える人もいる。それはそれで1つの技術である。

 だが、津田はそういうタイプではない。いつも必死で、いつも全力だ。余裕のなさが全身からにじみ出ている。だからこそ、彼の言動には魂がこもっていて、それが見る人の心を震わせる。

意外と演技力がある津田

 ただ、そんな津田は意外と演技力に定評があり、芝居が上手いと言われている。前述の通り、良くも悪くも津田は自分の器というものを持っていないので、役柄を演じて他人の色に染まることも容易にできるのかもしれない。そういう芸達者な部分があるというのもCMで重宝される理由だろう。

 器用で不器用。有能で無能。津田は相反する2つの要素をあわせ持つ矛盾そのもののような存在だ。それゆえに人の目を惹きつけずにはおかない。誰もが津田をイジりたくなり、誰もが津田で笑いたくなる。単に器が小さいだけの人間は他人から嫌われがちだが、器がない人間はむしろ興味を持たれる。

 広告の仕事で求められているのは、ひと目でわかるような圧倒的な存在感を持っているタレントだ。美男美女の俳優やモデルがCMに起用されるのは、彼らがその容姿だけで人を惹きつけることができるからだ。一方、津田は津田として生きているだけで人々を魅了する。まるで動物園のパンダのようなもの。「生き物を観察する面白さ」は、人間の本能に植え付けられているものなのだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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