小屋の近くには「ひがしで農園」のプレートをつけた畑で野菜を育てる。じゃがいも、大根、パクチー、行者にんにくなどその数10種類以上/撮影・上田泰世(写真映像部)
小屋の近くには「ひがしで農園」のプレートをつけた畑で野菜を育てる。じゃがいも、大根、パクチー、行者にんにくなどその数10種類以上/撮影・上田泰世(写真映像部)

移住して3年、心の余裕が生まれた

――周りの方との交流を重ねるなかで、純粋な人と人とのつながりと出会ったんですね。山で暮らすなかで、「ただ自分がそう思い込んでいただけだった」と気づいたことはありますか。

 いっぱいあると思います。それこそ東京にいたときは、コンビニの近くに家があるほうがいいなと思っていました。でも、そういう生活をしながらどこかで悶々としていて。

 昔、画面が割れたiPadをそのまま使っているのを見たマネージャーから、「そんなものを役者が使ってみっともない」と言われたことがありました。「役者は画面が割れたiPadをみっともないと思わなければいけない職種なの?」という疑問がずっと自分のなかに残っていたり。

 些細なことに聞こえるかもしれません。でも、それをたいしたことないんだって思えるようになったのは、この山に来てからです。そういった気づきはいっぱいあるから、言い出したらキリがないですね。

東出さんの住む小屋には、蜂の巣ができていた。「1年で亡くなるので、今いる蜂は去年巣立った子どもたちだと思います。実家の思い出をたどってまたここに来るんでしょうね」/撮影・上田泰世(写真映像部)
東出さんの住む小屋には、蜂の巣ができていた。「1年で亡くなるので、今いる蜂は去年巣立った子どもたちだと思います。実家の思い出をたどってまたここに来るんでしょうね」/撮影・上田泰世(写真映像部)

 ここにきて、丸3年になります。1年目は、今満開の桃の花には気づいていませんでした。「確かにきれいだな」と思ったのが去年で、今年は「ものすごくきれいだな」と思うようになった。心の余裕が生まれているからだと思います。今年の春は、目に鮮やかな景色を毎日見れて、本当に良かった。

 大雨が降って予定を変更せざるを得ないときでも、雲の厚さや薄さ、光の入り具合を見て、「もうすぐやみそうだな」と思えたり、そう考える時間はとても豊かです。人類って、ずっとそうだったはずなんですけどね。

(構成/AERA編集部・福井しほ、撮影/写真映像部・上田泰世)

小屋の近くに露天風呂をつくるという。完成時期は未定/撮影・上田泰世(写真映像部)
小屋の近くに露天風呂をつくるという。完成時期は未定/撮影・上田泰世(写真映像部)

◯東出昌大(ひがしで・まさひろ)/1988年生まれ。2022年4月に山暮らしをはじめ、俳優と狩猟生活を両立させている。24年8月に松本花林さんと結婚。25年2月に花林さんとの第1子が生まれた。近年のおもな映画出演作に「Winny」(23)や自身を追ったドキュメンタリー「WILL」(24)など

写真・図版(9枚目)| 「役者だけが僕の生きていく術ではない」東出昌大が明かすコンプレックスとの向き合い方
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