歌舞伎役者・中村吉右衛門さん主演で大ヒットした時代劇『鬼平犯科帳』が、12月3日21時より放映の『鬼平犯科帳THE FINAL』(フジテレビ系列)を最後に、シリーズの幕を下ろします。
1989年の放映開始以来、28年の長きにわたりお茶の間で愛された同作は、作家・池波正太郎さんの同名小説が原作ですが、2013年には小説とコラボしたPA「鬼平江戸処」(東北自動車道上り線羽生パーキングエリア)もオープン。江戸の街並みを再現した施設内では同作の世界観を体験できるほか、物語に登場する「五鉄の軍鶏鍋」や「一本饂飩」などの料理の数々も味わえるとあって、人気を集めたのをご記憶の方も多いのではないでしょうか。
新書『「火附盗賊改」の正体 』によれば、"鬼の平蔵"こと長谷川平蔵は、火附盗賊改(ひつけとうぞくあらため)の長官を務めた実在の人物。
幼名を銕三郎と言い、若い頃は父の遺産で放蕩三昧、「本所の銕(ほんじょのてつ)」と呼ばれた札付きのワル。42歳で火附盗賊改に抜擢された後は、自ら与力・同心を引き連れて放火や強盗などの凶悪犯を捕縛し、歴代長官の中でも抜群の功績を残しました。
事件を裁く以外にも平蔵が心血を注いだのが、一大プロジェクト「人足寄場(にんそくよせば)」の設置でした。犯罪者を取り締まる日々の中で、貧困ゆえに犯罪に走る者が多いこと、そして再犯率も高いことに気付いた平蔵は、"たとえ犯罪者であっても、公的援助を受けて、手に職さえつければ社会復帰できる"という信念を抱くようになります。
そこで幕府に提言し、身元引受人がいない軽罪の犯罪者を収容し、大工・鍛冶屋・紙漉きなど本人の適性に合った職業訓練を受けられる更生施設「人足寄場」を創設し現場監督に立ったのです。こうした犯罪者の社会復帰を目指した取り組みは、世界初の犯罪者自立支援プロジェクトと言われています。
実は火附盗賊改の仕事は、役高1500石に、役料40人扶持ほどで、町奉行に比べて日陰の立場。さらに奉行所のように役所があるわけでなく、個人負担で自邸に吟味所を設置する義務があるなど、職務に励めば励むほど出費の方が上回るポストでした。とくに平蔵の場合は、本来の業務の範疇を超えた「人足寄場」に私財を投じた以外にも、市井の情報を入手するために、自邸で毎日大釜で飯を炊いては無宿者に振舞うなど、身銭を切ることの方が多かったのだとか。
当時、火附盗賊改に就任した者には、過酷な業務に報いるために、この役目を3年も務めれば、遠国奉行などの実入りの良いポストに昇進させる措置が取られていました。しかし、平蔵は火附盗賊改を足掛け9年にもわたって務めたにも関わらず、奉行に出世することもなく、在任中に51歳で病死しています。
凶悪犯を震え上がらせた武闘派・鬼平の姿だけでなく、刑死させた犯罪者の菩提を弔ったり、誤認逮捕を自腹で償ったりしていたことなど、人間味あふれる平蔵の素顔も伝える同書。今夜放映のドラマも、江戸の治安維持のために激務に明け暮れた平蔵の生涯を知ったうえで鑑賞すれば、感慨もひとしおなのではないでしょうか?