いわゆる「盛り土問題」で、思わぬ事態へと突入し、耳目を集める築地市場。1935(昭和10)年に開設され、今年で81年目となる同市場は、これまでテレビ番組のグルメ企画などでしばしば登場してきたものの、それらは併設された築地場外市場商店街についてのものが大半で、市場そのものについて詳しく紹介されることは、意外と少ないものでした。また、そこで活発にやりとりされている鮮魚たちについても、毎年お正月になるとマグロの初セリの様子がニュースとなったりもしますが(※今年はなんと1匹1400万円!)、たとえばそのセリがどのような形で行われ、私たちの胃袋へと至るのかなど、その詳細については、あまり知られていないのが実情です。



 まず、そもそも「魚はどこから来て、どうなっていくのか」。たとえ築地市場のある東京で暮らしていても、市場の存在こそ把握しこそすれ、詳しく知っている人は意外と少ないもの。同書によると、深夜に全国各地の漁港からトラックで運ばれてきた魚は、まず、一般の我々が普段はめったに入ることのない市場の一番奥まった場所で荷卸され、その種類ごと、保存方法ごとに分けられるそうです。その後、卸売り業者の人による品定めが行われるのですが、一晩に築地にやってくるトラックは実に8000台。夕方頃からしきりにやってくるトラックの多さに、我々日本人の胃袋の大きさを思い知らされるところです。



 たとえば寿司ネタとして大人気のマグロを例にとった場合、卸売り業者の人々による品定めを終えると、今度は実際のセリへとかけられることとなります。それは「部外者ぜったい立入禁止」の場所で行われ、品質管理のためにキンキンに冷やされ、夏でも寒い状態。またその肉質を見るために、マグロは尻尾を切断された状態で持ち込まれ、セリ用の番号を体に書かれる形で、1つ1つ丁寧に管理されてセリ落とされていくこととなります。日本のみならず世界各地から集められたマグロが、セリ場一帯にビッシリと並べられた光景は「とても近寄れない雰囲気」(同書より)とのこと。その規模感と独特な緊張感は、実際に現地を訪れたことのある人でもない限り、想像しづらいものかもしれません。



 その後、仲卸によってセリ落とされたマグロは、彼らの店が軒を連ねる仲卸市場へ。そこでようやく解体され、その際に不要となった「切り落とされた頭やヒレ、残った中骨やアラなどは、回収されて飼料などに利用」」されるとのこと。仲卸業者たちは、二人一組で呼吸をあわせて、巨大なおろし包丁などを巧みに使うことで、どんなに大きなものであっても、手際よく解体していくそうです。そして、切り分けられたマグロは、赤身やトロなどといった部位ごとに分けられ、ようやく我々の見慣れたサクなどの形に姿を変えると、お寿司屋さんやスーパーなどといった彼らの顧客に売られていくのです。ちなみに築地にはなんとおよそ200軒ものマグロ専門店が。その1軒1軒に毎日毎日大量のマグロが入荷され、買い手がついていくことを思うと、今更ながら驚きを禁じえないところです。



 こうしたプロセスを経て、やがては我々の食卓に上ることとなるマグロ。このようにわかりやすく図示されると、その規模がいかに大きく、また、どれだけ多くの人々が携わっているかを思い知らされるところです。目下、豊洲移転問題で揺れる築地ですが、ニュースの報道だけでは伝わってこないこうした築地の知られざる部分と、そこでやりとりされる魚について、みなさんも一度、バーチャル社会見学的に学習してみてはいかがでしょうか。