
大西さんの最初の本『校正のこころ』は校正者の仕事について、深い思索とともに書き話題となった。
「本を出してから出版業界の講演会やセミナーに呼ばれることが増えました。100人を超える聴衆に一方的に話すのではなく、少人数で、丁寧に言葉や文字について考えるような教室を開きたいと思うようになりました。ほっとできるような空間で、言葉について考えたかった」
ちょうどその頃、「自宅でなにかやりたい」という話がライターの友人からあった。
「友人は文章教室、私は校正教室をやることにして2016年から『かえるの学校』を始めました。 毎月1回、8人くらいが集まり、いろいろなテーマについて4時間、濃密に話し合います。校正の技術だけでなく言葉や文字の背景や出版の知識、タイポグラフィーについても学びます。今回の本はこの校正教室での実践をもとにまとめました」
参加者は編集者、デザイナーなど出版関係者もいるが半分以上は一般の人だ。
「皆さん『校正は普段の生活や仕事に役立つ』と言ってくれます。とくに広報など文字情報に携わる方は、校正のスキルや基本的な知識が身につくと、意識的かつ効果的に言葉を発信できるようになります。校正は相手の言葉の意味を理解するところから始まります。自分と違う考え方に対したとき、どう接するかのレッスンになるんです」
言葉との距離がとれれば、反射的に怒るなど、振り回されずに済む。本書で大西さんは事実確認の方法や資料の使い方についても紹介している。正しい内容を適切な言葉で伝えること。よい文章を書くためにも校正の心が大事であると教えてもらった。
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2025年4月28日号