おおにし・としお/1962年、神戸市生まれ。校正者、一人出版社「ぼっと舎」代表。88年から文芸書、一般書を中心に校正の仕事を始める。幅広い本の校正に携わる。現在は出版業界以外の人を対象にした校正のワークショップや講座を開催する(撮影:横関一浩)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】情報社会上の人間関係もスムーズに進められる知恵がつく一冊

 『みんなの校正教室』は、言葉に関心のある一般の人から実務者まで、わかりやすく基本が身につく、これまでにない校正の教科書。エッセイ、手紙、雑誌など、六つのテーマに沿って読むうちに「校正すること」を学べる構成だ。さまざまな分野・職種、生活シーンの校正を体験しながら、言葉と上手に付き合い「生きる智恵」となる校正のスキルを学ぶことができる。著者の大西寿男さんに同書にかける思いを聞いた。

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 裏方の存在である「校正者」が注目されている。今日の「校正ブーム」の立役者が校正者の大西寿男さん(62)だ。今年1月に発表された第172回芥川賞を『DTOPIA』で受賞した安堂ホセさんはじめ、多くの作家が大西さんの校正に信頼を寄せていることを明かす。レジェンド的な存在だ。

 言葉と上手につきあい、「生きる智恵」をいかに身につけるか。『みんなの校正教室』は大西さんが校正について、考え方と技法をまとめた一冊だ。エッセイ、手紙、雑誌、レシピなど、身近な内容をいかに読みとり、校正していくのか、実例や課題とともに教えてくれる。

「情報があふれる時代になって、メディア関係者だけでなく一般の方にも校正的な思考や情報との距離感を持つ必要が生まれてきたと思います。誰もが情報発信できることは喜ばしいですが、無防備に生の言葉が投げ出され、人の目に触れる可能性があるからです。たとえばメールやSNSの投稿をするとき、言葉が間違って受け取られるのではないか、思ったように届くだろうか、短い時間でも見直しをするなら、それは立派な校正です」

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