
かつては、円が安くなれば日本製品がより多く売れた。ドルを手にした日本企業は、為替市場でドルを売って円を買うので、自然に円高に戻った。しかし現在は、日本製品の競争力低下で輸出が伸び悩み、その代わりに北海道の土地や都心のマンションなど不動産が外国人投資家に買われている状況だ。つまり、現在起きているのは、「海外の株式と国内の不動産を交換する」という構図である。
新NISA制度を利用する個人投資家は、長期的な資産形成を目的として淡々と積立投資を続けているため、為替レートを気にせず円を売る傾向がある。結果、円安に動きやすい。外国人投資家は割安な円を使い、日本国内の不動産を着実に取得している。
国内の預金が海外への投資に向かえば、確かに国全体での資産所得はふえるだろう。しかし、その裏では、外国人が購入した不動産から得られる家賃や売却益は海外へ流出している。また、地価が高騰すれば、日本人自身が住宅を購入しにくくなり、生活コストの増大も招く。
北海道など観光地では外国人向けリゾート開発が進む一方、地域の介護施設や生活関連施設では労働力不足が深刻化しているという問題もある。海外投資が地域経済に還元されず、むしろ地域経済が「外国人向け」のサービスに偏ってしまうことにもなりかねない。外国の資本が日本の土地や労働力を吸い上げているという現実を無視するわけにはいかない。
「海外の投資マネーを日本に呼び込んでいる」という表現は、聞こえはいいのだが、その実態をよく吟味した方がいいだろう。
諸外国で行われているように、日本でも、外国人による不動産購入に対して追加課税を検討するなど、一定の抑制策の導入を検討した方がいいのではないだろうか。
※AERA 2025年4月7日号