(c)2024 PAGE 114 - WHY NOT PRODUCTIONS - PATHE FILMS - FRANCE 2 CINEMA COPYRIGHT PHOTO :(c)Shanna Besson
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 メキシコの優秀な弁護士リタ(ゾーイ・サルダナ)は男性の上司に利用されるだけの日々に怒りを抱えていた。そんなリタの前に麻薬王マニタス(カルラ・ソフィア・ガスコン)が現れ、驚くべき依頼をする。それは「女性として生きたい」というものだった──。アカデミー賞助演女優賞受賞作「エミリア・ペレス」。脚本も務めたジャック・オーディアール監督に本作の見どころを聞いた。

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 本作のアイデアのもとはボリス・ラゾンの小説です。性別適合手術を希望するトランスジェンダー女性の麻薬売人が登場するのですが、あまり掘り下げられていなかった。しかし私はこの大きな矛盾を抱えた人物に興味を引かれました。男性優位社会で家父長制の見本のような男性が「女性的な女性になりたい」と願う。男性社会で暴力をもって生きてきた人物がそれを断ち切ることができるのか? その宿命に果敢に立ち向かう人物としてエミリアを創造しました。

 トランスジェンダー女性ではない役者を起用することは論理的に考えられませんでした。もうそういう時代なのです。カルラ・ソフィア・ガスコンに出会った時は衝撃でした。抗いがたい魅力を彼女は持っていた。デリケートなエピソードが多いので彼女に多くの質問をしました。性別適合の手術シーンは本当にリアルかな?とか、こういったシーンを演じるのはいやではないか?とか。彼女はたくさんのアドバイスをくれました。

 ゾーイ・サルダナの役は小説では男性でしたが私は女性にしたいと思いました。さらにゾーイが40代半ばと知り、当初は20代に設定していた登場人物たちの年齢を上げることにしました。その年代の女性たちが男性社会のなかでキャリアを積む難しさを想像できたからです。本作はジェンダーについての私なりの答えでもあります。

(c)Eponine Momenceau

 スマートフォンで映画を観ることができる時代、またフェイク映像が溢れる現代に「映画」というメディアをひとくくりにはできないと感じています。しかし私には信念があります。映画とは社会や人間がどういうものであるかを画面に映し出してくれる。私は映画によってさまざまを学んできました。本作から「寛容さ」について受け取ってもらえればと願います。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2025年3月31日号

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