
“闇バイトなんか見向きもしない人”になってほしい
手記では、射幸心に駆られた自分の弱さを冷静に分析している。
〈振り返れば満たされていた日々ばかりだったのにもかかわらず、私はそれに気付く事が出来ず、溢れ出る欲に身を任せすぎた結果、自分の給料ではどうしようもなくなり、自ら負のスパイラルに陥ったと言えます。~中略~ どんな御託を並べようと最終的には欲求を自制出来ない、誤ったエゴの主張を続けていた自分が悪いです。今の欲よりも頭で悪い事と思っている理性こそが人間の本質なのではないかと思います〉
24年11月、永田被告は一審で無期懲役の判決を受けた。被告は現在控訴しているが、その理由は判決内容に不満があるからではない。「東京拘置所に移送されることで、今後、一連の事件の被害者やご遺族が面会を望んだ際に、移動の負担が少ない刑務所に収容されやすくなる」と考えており、近いうちに控訴を取り下げるという。
判決が確定して無期懲役囚となると、手紙や面会など外部との接触は著しく制限される。手記の最後は、闇バイトに手を出そうとしている人への切実な呼びかけで結ばれていた。
〈今の生活に満足しているのなら満足出来る部分があるのなら“無理に背伸びなどしないでほしい”と切に思います。~中略~ 私なんかに意見される“闇バイトに手を出す人”ではなく、私と違い周りの方を幸せにしながら日々を生き抜き、当たり前の日常の大切さを知っておられる“闇バイトなんか見向きもしない人”になってほしいと、そんな人生を歩んでほしいと心から思っております〉
手記を公表するにあたり、永田被告は複雑な思いを吐露していた。
「闇バイトを減らすために発信したところで僕が奪った命は戻らないし、事件について改めて報道されればご遺族は苦しみをおぼえる。何をすれば償いになるのか、分かりません」
そして、こうつぶやいた。
「本能のまま誰かを傷つけるなんて人間じゃない。人に戻りたい」
私たちが毎日のように触れるSNS上に、人の道を外れさせる落とし穴が無数に口を広げている。軽い気持ちで近づく若者たちの耳に、穴の底から叫ぶ永田被告の声は届くだろうか。
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

