日本ハム時代の杉谷

ファームでは安打数の新記録

 杉谷は帝京高校から日本ハム入りし、現役時代はチームを明るくするムードメーカーだった。現役通算777試合出場で打率.212、16本塁打、104打点、55盗塁。規定打席に到達したシーズンはなかったが、内外野を守れるスイッチヒッターとして重宝された。

 当時指導した日本ハムのコーチが振り返る。

「世間のイメージと違うかもしれませんが、繊細でしたね。若手の時は周りの選手のことばかり気にして自分に自信が持てていなかったように見えました。野球センスは高かったんですよ。高卒2年目で当時のイースタンリーグ新記録の133安打をマークした。足も速かったし、『もっと自信もってやれよ』とよく言いました。レギュラーは獲れなかったけど、14年間もプロの世界で生き抜いてファンの皆さんに愛された。たいしたものですよ」

 杉谷の知名度が全国区になったのはグラウンド上の活躍ではなく、テレビ朝日系列で続くスポーツバラエティー番組「夢対決!とんねるずのスポーツ王は俺だ!!」内のコーナー「リアル野球BAN」への出演だ。帝京高校野球部の先輩である、とんねるずの石橋貴明が率いる石橋JAPANの一員として15年から参加し、企画の盛り上げ役として不可欠な存在になった。

 22年限りで現役引退した後は、バラエティー番組などで精力的に活動しているが、ほろ苦い経験も味わっている。23年の3月、WBCで優勝した侍ジャパンの記者会見に、杉谷はメディアの報道陣に交って参加し、質問者として手を挙げると、大谷翔平に対して、「大谷さん、ずっと僕キャンプから同行しているんですけど、僕のこと分かってますか?」と質問。一部の選手は笑みを浮かべていたが、会場は微妙な空気になった。

会見後に栗山監督から叱責

 日本ハム関係者がこんな後日談を教えてくれた。

「後で栗山英樹監督から、『あそこはふざける場じゃない』と怒られたみたいです。杉谷さんは場の空気を和ませようと思って発言したのかもしれませんが、猛省していました。でも、あの出来事が転機になったと思います。それまでは場を盛り上げようと肩に力が入っている感じがしましたが、取材対象者の良さを引き出そうとテンションを抑えるように心掛けているのがわかります。チームメートだった選手に聞くと、『あいつは元々そんなに口数が多くない。穏やかな今の姿が素に近い』と言っていました。YouTubeチャンネルでダルビッシュ有(パドレス)、近藤健介(ソフトバンク)、浅村栄斗(楽天)などと対談しているんですけど、聞き上手で新たな情報を引き出すのがうまいですよ」

 杉谷は現役時代から、スタメンというよりも、代打や代走、守備固めで起用されることが多く、チームに求められる役割をこなしてきた。代役で始まったベンチレポーターは、お手の物だったのかもしれない。来年はいよいよWBC本番。果たして杉谷は、レポーターの「スタメン」に起用されるだろうか。

(今川秀悟)

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼