ロシアに侵攻されて丸3年。2025年2月24日、ウクライナ・キーウには戦没者の肖像画が並んだ(写真:アフロ)
この記事の写真をすべて見る

 激しい口論となったトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談。今後どのようなシナリオが想定されるのか。外交ジャーナリスト・手嶋龍一さんが解説する。AERA 2025年3月17日号より。

【写真】今後どのようなシナリオが想定されるのか 解説をする外交ジャーナリスト・手嶋龍一さんはこちら

*  *  *

 今回のトランプ・ゼレンスキー会談では、メディアの眼前で長々とやり取りを交わし、途中で記者に質問まで許しています。停戦の行方を危うくする決裂劇のカギは、常軌を逸した会談の進め方に潜んでいたのです。まず相手を苦境に追い込み、自分が狙う妥協に誘っていく。これがトランプ流のディールです。ゼレンスキーはその罠に落ちてしまいました。一方でトランプは第1次政権で金正恩と首脳会談に臨みながら、核の放棄に道はつけられなかった。トランプ流ディールは不動産ならともかく、外交では必ずしも通用しないのです。

 会談の破綻で迅速な停戦は遠のいてしまいました。しかし、両国ともおびただしい死傷者を出し続けており、悲惨な戦闘は一刻も早くやめたいはずです。ゼレンスキーは欧州を頼る一方でトランプとの関係修復に動き、和平への道は深い霧のなかで進んでいくでしょう。

 ゼレンスキーは協議が破談になった直後、ロンドンに飛んでイギリスのスターマー首相と会談し、続く緊急会合で独仏などの首脳とも協議しました。その席でイギリス政府は空、海、重要インフラに対する戦闘をまずやめ、陸上の停戦につなげる案を示しました。さらに、停戦が実現すれば欧州の主要国が「有志連合」を結成し、平和維持の部隊をウクライナに派遣する構想が明らかにされました。

米国の姿なき安全保障

 しかし、こうして実現される停戦は、ゼレンスキーが思い描いた和平とは似て非なるものだと言っていいでしょう。プーチンが奪い取ったクリミア半島と四つの州の大半は、モスクワの手に渡ってしまう懸念が濃厚だからです。

 そして、戦いを終えたヨーロッパの戦略風景は、これまでとは決定的に異なるものになると考えます。それは“米国のプレゼンスなき欧州”です。米国の姿なき安全保障は、やがて東アジアにも大きな影響を与えずにはおかないでしょう。

次のページ 「欧州独自の核」思想