
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年3月10日号にはメーサイ 九州事業所 ボーリング機長 島宏樹さんが登場した。
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マシンで地面に孔(あな)を掘り、土の試料を採取するボーリングは、目に見えない地中の状態を調べるのに欠かせない技術だ。そのボーリング調査と地盤環境コンサルティングを行う会社で現場を牽引する。
「地層をどう攻めていくかは機長のイメージの世界なんです。音や振動などマシンに伝わってくる繊細な情報を手がかりに、地層の変化点を想像して採取します」
主に土壌や地下水の汚染を調べる環境調査に携わり、工場をはじめ様々な現場を担う。
「一番は助手を怪我させない。いつもと違うリズムが起きた時に怪我しやすいので、いかに焦らず、普段どおりにできるか。そのためにコミュニケーションを大切にしています」
職人として、自由にものを言う姿勢で風通しのいい現場をつくっている。それは被災地で簡易井戸を掘るという、会社を挙げた取り組みにもつながった。
2024年1月、能登半島地震による断水で生活用水に困っている被災地の状況を知り、「俺らが井戸掘りに行ったらええやん」と発案。自分たちには地下水の水質や流向を調べる試験井戸技術がある。用途を飲用ではなく非常用の生活用水に限れば、簡易井戸として応用できる。
「土質を見て水が出そうかおおよそ見当はつきます。でも掘ってみないとわからない」
それでも挑戦しようと仲間とともにプロジェクト化し、会社がボランティア活動を20日間限定で業務として認め、全面サポートした。地質情報を調べ、取引先からパイプやポンプの寄付を受け、翌2月に石川県輪島市、珠洲市、穴水町、七尾市へ。依頼を受けた14カ所を6日間でまわった。
「この自走式ボーリングマシンなら多少の悪路もいける」
先代から20年以上乗り続けている「レジェンド機」。第三者から「そんな機械で行って水出るんか」と心配されたが、荷台から5分で下ろせて自走できる機動力を信頼した。
現地では十分な水量を確保できた所もあれば、場所によっては微量しか出ず、川からの取水に切り替えた局面も。
「どの現場でも考えたとおりにいかないのが常。だから面白い。目的に応じた最も効果的な手段を見つける目を普段から養っています」
「100%現場仕事」で培った経験知を、どこに行っても普段どおり生かしている。(ライター・桝郷春美)
※AERA 2025年3月10日号