地方企業に広がる「奨学金肩代わり」
こうした動きは、地方の企業でも多くみられる。
三恵商事(宮城県塩釜市)は、23年4月から奨学金返還支援を始めた。日本学生支援機構が2021年から始めた代理返還制度だ。給料とは別に、年間10万円を上限に最大4年間の奨学金を、日本学生支援機構に代理返還する。新卒のみならず30歳以下の中途採用者まで広げた。これまで10人以上がこの制度を利用しているという。
同社の坂井陽一社長はこう話す。
「弊社でも若手社員の多くが奨学金を使って大学に通っていた。企業として地域の若者を大事に思っているので心の負担を少しでも軽減して、自分の心の奥底に眠っている”本当にやりたいこと”にお金を回してもらえたらうれしい」
人手不足を解消すべく、多くの企業が取り入れている制度で、貸与の奨学金を受けている学生にとっても明るい話だが、こんな側面もある。
代理返還制度を入れているある地方企業では、制度を利用している社員が、返還期間の途中で会社を辞めてしまったという。
「8月にまとめてその年度の奨学金を払っているのですが、その社員が退職したのは9月でした。働いていない期間の分まで奨学金を肩代わりすることになり、会社としては損でしたね…。社員が辞めにくくならないように、最低労働年数は設定していなかったので、残念というか、なんともやるせない気持ちになりました」(人事担当者)
この代理返還制度を導入する企業が増えていることについて、働き方専門家で千葉商科大学教授の常見陽平氏は、
「企業が人材不足という課題を解消するためのアクション」とした上で、「学生の苦しい現状を表している」
と話す。
「まず、奨学金は『給付型』と『貸与型』のどちらもありますが、日本では『貸与型』の方が多いです。これはいわば『教育ローン』なのです。金額によっては完済するのが40歳前後になる場合もあります。若い時の時間を無駄にしたくないという学生が増えている今、代理返還してもらえるというのは、企業選びをする際の重要な要素となるのは間違いないと思います」