「奨学金肩代わり」は安易につられてはいけない側面も

 一方で、常見氏は「時代と逆行してしまうのではないか」とも指摘する。

 つまり、奨学金を肩代わりしてもらうということは、社員にとってはメリットである半面、辞めにくくなるということが考えられるということだ。企業によっては、決まった年数を勤務せずに辞めた場合は違約金を支払う、といった条件を設けているケースもあるという。仮にそうした条件がない場合でも、当然、辞めることを躊躇することにもつながる。

「今は転職市場が活発化し、新卒で入る会社を『1社目』と捉える若者が一定数います。実際、転職する人の多くは、人間関係だったり、職場環境だったり、待遇改善だったり、理由はさまざまです。支払いが苦しかった奨学金を代理で返還してくれるからといって、人間関係が合わないのにその会社に居続けるというのは、苦痛そのもの。より活躍できる、稼げるチャンスを奪っているとも言えます。自分がキャリアチェンジしたいと考えたときに、辞めにくさが邪魔してしまう場合も想定できますし、『職業選択の自由』を奪うことにつながりかねないとも思います」

 常見氏によると、実際に以前、ある企業の社員が会社の制度で大学院に入り、別会社に転職しようとした際、違約金を請求されたという事例があったという。違約金は、若い社員が個人で払える範囲を超える数百万円という額が提示された。結局、この社員をどうしても獲得したい転職先の会社が違約金を払うことで、無事転職できたという。その人は、活躍し、のちに転職先の代表となった。

 このように代理返還を利用する若者について常見氏は、

「極端に言えば、“金で買われている状態”に近いとも言えます」

 との見方を示す。

 就職活動にあたる学生に対しては、こう警鐘を鳴らす。

 「会社に代理返還してもらうことで、自分の意見が言いにくくなったり、職場として自分に合わなかったりしたときに簡単に辞められないかもしれない。より慎重さをもって就職活動に取り組む必要があると感じます」

(AERA dot.編集部・小山歩)

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