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2月17日、トランプ政権に反対する市民が全米でデモを展開し、「クーデターは許さない」「イーロン・マスクを強制送還せよ」などのプラカードを掲げた。背景にはトランプ氏が進めている多様性・公平性・包摂性(DEI)政策の見直しがある。すでに職を失ったり、生活に大きなダメージを受けたり影響が広がっている。AERA 2025年3月3日号より。
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デモの間、激しく批判されていたイーロン・マスク氏は、電気自動車(EV)大手テスラの最高経営責任者(CEO)で、SNS大手X(旧ツイッター)のオーナーでもあるが、選挙で選出された政治・行政経験がある政治家ではない。しかも、彼がトップとして率いる政府効率化省(DOGE=ドージ)は、実は議会に承認された省庁ではなく、トランプ氏による「私設」チームのようなものだ。
デジタル的なクーデター、繊細な個人情報にアクセス
しかし、このDOGEが全省庁に対し、DEIに関する雇用やプロジェクトを廃止するよう通達。各省庁は、女性や人種的マイノリティーを積極的に支援するプログラムや海外への支援を一斉に取りやめた。さらに、試用期間中の職員を含む数万人に電話で解雇を伝えた。ロイター通信によると、退役軍人省で1千人、森林局で3千人がすでに解雇通知を受けた。SNSでは森林局職員が「春になって、人々が国立公園に出かけるころには、ハイキングの道がなくなり、保護すべき動物も姿を消しているだろう」と投稿している。
またDOGEは、内国歳入庁(IRS)の納税者データへのアクセスを試みており、非常に繊細な個人情報であるために問題視されている。
「クーデター」という言葉を使い始めたのは、ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏やエール大のティモシー・スナイダー教授(歴史学)だ。スナイダー教授が描く現在のクーデターは、覆面をした民兵が銃を携え、政府のビルにタイヤをきしませて車で乗り付け、襲いかかっていく、という光景ではない。その代わり、平服の若い男性らが、ハードディスクドライブを持って、連邦政府ビルに何げなく入っていく。「ホワイトハウスのお墨付きだ」と言って専門用語を並べ、省庁のコンピューターシステムにアクセスし、一網打尽に機密情報をダウンロードしていく。この若いチームが、マスク氏が結成したDOGEチームのエンジニアたちだ。しかし、チームに法的根拠はないため、無法状態の混乱が起きている。デジタル的な「クーデター」は国民の貴重な個人情報にまで及んでいる。