木村隆二被告

「もう政治的なことはしません」

 岸田氏を狙った動機について木村被告は、自身が政治家になれない不満があったと主張した。参議院選挙に立候補を考えたが、立候補できるのは30歳以上で、供託金のハードルもある。それを不満に思い、「立候補できないのは違憲」だなどと大阪地裁に国家賠償請求まで起こしていた。またXにも不満を投稿していたが、注目されていなかった。

「自分の主張を広く知ってもらうためには、事件を起こして注目してもらうのがいいと考えた。爆発物を製造して、有名な政治家の近くで大きな音をたてれば注目され、自分の言い分も理解されるはず」

 などと木村被告は動機を説明した。

 これに対して検察側から、

「大きな音なら爆竹でもよかったのではないか?」

「爆発物だとコントロールがきかず、人を傷つける意図があったはず」

 と問われると、木村被告は、

「爆竹ではなく、爆発物で大きな音が出るようにしたかった。岸田首相ら人は逃げるので大丈夫だと思った」

「実験では上に飛んだ。大きな音が出ればよかった」

 と話したが、小声で自信なさそうに聞こえた。

 木村被告は自らが参院選への出馬を希望していながら、事件当日について、

自民党のホームページで岸田首相の予定を知ったが、衆院補選の演説とは知らなかった」

 と選挙演説の妨害については不合理な説明に終始していた。

 だが、なぜか論告求刑の日になって、

「選挙の演説だと知っていた。多くの人にご迷惑をかけ、申し訳なく思う」

 と認め、

「もう参院選に出馬したり、政治的なことはしません」

 とも語った。

 判決は、

「現職の内閣総理大臣を狙った爆発物使用事件ということで、社会全体に与えた不安感も大きい」

「世間の注目を集める手段として犯行に及んでおり、その意思決定は極めて短絡的。模倣犯を防ぐ観点からも厳しい処罰をもって臨む必要がある」

 などと厳しく指弾している。

「2発目の爆弾が爆発していたら…」

 判決後、木村被告の弁護人は、

「これから被告人とよく相談したうえで、控訴するかどうか決定する」

 と述べるにとどまった。

 事件が発生したとき、私の近くで演説を聞いていた住民は、判決についてこう語った。

「爆発した瞬間、すごい勢いで鉄の塊のようなものが飛び散り、今も思い出すと胸がどきどきします。木村被告の話は言い訳にしか聞こえない。もっと、事の重大性を認識してほしい。群衆の中に放置された2発目の爆弾が爆発していたらもっとひどい事件になっていた」

(AERA dot.編集部・今西憲之)

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