取り押さえられる木村隆二被告
この記事の写真をすべて見る

 和歌山市の雑賀崎漁港で2023年4月、選挙応援に訪れた岸田文雄前首相に手製の爆発物を投げ込んだとして、殺人未遂や公職選挙法違反などの罪に問われた木村隆二被告(25)に対して、和歌山地裁は2月19日、懲役10年(求刑懲役15年)の実刑判決を言い渡した。

【写真】安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也被告と取り押さえようとするSP

 裁判で一番の争点となっていたのは殺意の有無だった。木村被告側は「殺意はなかった」と主張したが、検察側は「人の命を奪う危険が極めて高い爆発物を、大勢の人がいる中で投げつけ爆発させた」ことなどから「殺意があったのは明らか」と主張。

 だが判決は、

「爆発物を多数の者が集まる場所で使用すれば、飛散の仕方によっては人を死亡させる可能性が高いことは常識的に分かるはず」

 などと検察側の主張を認めた。

すさまじい爆発音、白い煙、火薬のにおい

 この判決は、事件が発生した時に現場にいた私(記者)もうなずけるものだった。

 23年4月15日、私は選挙の応援をする岸田氏の取材のため漁港にいた。屋根がある「セリ場」のような演説会場には、150人ほどの聴衆が集まっていた。岸田氏が漁港を視察後、演説会場に到着し、これから演説を始めようとしたとき、アルミ缶のような銀色の筒が私の前方から岸田氏のいるほうへ飛んでいったのが見えた。

 すぐに、「こいつやー」という声とともに、周囲にいた漁師らが木村被告にとびかかって、取り押さえた。私が木村被告のほうに駆け出し、スマートフォンで撮影を始めていると、突然、岸田氏のいる演壇前で「ドーン」と地鳴りのようなすさまじい爆発音が響き渡り、周囲に白い煙と火薬のにおいが立ち込めた。木村被告が投げた爆発物が爆発したのだ。

 悲鳴があがり、現場が騒然とする中、「危ない、もうひとつ!」という声が聞こえた。木村被告が用意していた別の爆発物が、私が撮影していたところから2~3mのところに転がっていた。

「危ない、逃げて!」

 と声がして、現場は大混乱となった。

 裁判で検察側は、木村被告の手製の爆発物の威力について、

「爆発後、爆発物の部品等がロケットのように発射され、約40m先の倉庫、約60m先のコンテナに飛んでいる。部品等が当たれば人が死ぬ爆発物。死者が出なかったのは不幸中の幸い」

 などと殺傷能力が高いものだったと指摘した。現場にいた私も、あの聴衆の中で爆発物が飛び散った方向に人がいなくて、死者が出なかったのは幸いだったと感じる。

次のページ
「世間の注目を集めるための犯行は極めて短絡的」