英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。
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購読しているザ・ニューステイツマン誌が届いたので開けてみると、いきなり表紙にデカデカと「Class War(階級闘争)」と書かれていたのでびっくりした。そういう特集号らしい。いよいよ世の中はアイデンティティー政治から階級闘争の時代へと移行を遂げたか、と感慨深く思ったが、英国で階級がホットになっているのには理由がある。
英政府が、私立校授業料へのVAT(付加価値税)課税を導入した。これに私立校関係者や私立校の子どもの保護者たちが反発しており、政治家や知識人を巻き込んで論争になっているのだ。「授業料への課税とは何事か」という声もあるが、BBCによれば、英国の私立校の年間授業料の平均は約1万5千ポンド(約290万円)。イートンやハロウのようないわゆる名門校では年間約5万ポンド(約960万円)になる。英国のフルタイムの勤労者の税込み年間所得の中央値が約3万7千ポンド(約710万円)だから、これらがどういう額なのかは想像してもらえるだろう。
私立校に通う子どもの数は、英国のすべての学校に通う子どもたちの7%に過ぎない。でも、富裕層だけではなく、必死で働いて子どもを私立に通わせているミドルクラスの親もいるので、課税は不公平の声もある。が、「10人に4人の私立校の子どもたちが駆逐される」「3万7千人が私立校から追い出される」といった、公立校への転校を余儀なくされる子どもを憐れみ嘆く見出しを見る度に、公立校に通う93%の子どもたちはそんなに嘆き悲しまれなければならない場所で生きているのかという気分になる。
政府は課税による税収を、公立校に投入すると言っている。よりラディカルな左派は、私立校廃止を唱える。最近の調査では54%が課税を支持、21%が反対しており、私立校制度は不公平だと思う人は57%、思わない人は22%となった。
様々な社会的背景の子どもたちが同じ場で一緒に学ぶべきと考える人は49%だった(反対は22%)。階級間の対立と憎悪を生むのが互いへの無知と無理解ならば、「Class War」が「Civil War」になるのを防ぐためにも、この視点こそ最重要だ。
※AERA 2025年2月17日号