元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さん、なんと翻訳にも挑戦

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 先週のアエラは英語特集。英語、話せるようになりたいよね! それは我ら島国の民の国民的憧れ。私も自分なりに努力して参りました。ラジオ英会話は毎年のように挑戦したし、音声付き教材本も何冊買ったことか。でも見事という他ないレベルで効果ゼロ。何とか命あるうちにペラペラ喋りたいと、会社を辞めたら語学留学ってことも考えたが果たせぬまま今に至る。

 で、ですね。今回本当に書きたいのはここからでして、私なぜか今、自分史上最高の英会話力を獲得しているのだ。勉強を諦めた今になって突然! 理由は非常にシンプルで、組織を離れてフラフラ生きていると同類と友達になるせいか、今外国人の友達が自分史上マックスにいるから。要するに、慣れたのだ。でもこの「慣れる」って一体どういうことなのか、今にして思えばこれまで全然分かってなかったと思うので、ちょっと詳しく書いてみる。

苦手意識が消えるというのはスゴイもんで、なんと翻訳にまで手を出しております(写真/本人提供)

 まず、慣れるにはまず話すこと。となれば「伝えたいこと」がないと始まらない。それには、人と人がいて、お互い興味を持って、互いを知ろうとすることが出発点であって、文法や構文を知っているだけでは話す機会は訪れないのである。つまりはまず何より、感じ良い笑顔や好感を持たれる態度、即ち「言葉以前」のものが大事なんだよね。

 ここをクリアすれば、あとは伝えたいことを一生懸命伝えるだけ。もちろん華麗な英語なんぞ出てくるわけないから、身振り手振りはもちろん、伝えたい単語に近いと思われるニュアンスの単語を捻り出してやみくもに連射していると、相手がこちらの意図を汲み取ってくれて「○○ってこと?」と正しい英文にして返してくる。あ、そうそうそれそれ! ってことを何度も繰り返しているうちに、だんだん語彙力や文章力が身についてくるというわけ。

 つまりはですね、話したいことがあって、話したい相手がいれば、言葉は話せるようになる。当たり前のことだが、ずっと気づいていなかった。だからもう留学はしなくていいやと思ってるんです。

AERA 2025年2月10日号

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