全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年2月10日号には富士フイルムメディカル 超音波事業部 販売部 マーケティンググループ マネージャー 仲素弘さんが登場した。
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介護が必要な高齢者の中には、尿意や便意を感じなくなる人がいる。その場合、時間を見て排尿を促したり、浣腸したりしてケアをする。
時には便が溜まっていないのに浣腸をして“空振り”したり、便が溜まり過ぎていてベッドを汚してしまったりすることも。そうした出来事は看護師や介護職員にとって日常茶飯事だったが、5年前、AI搭載のワイヤレス超音波画像診断装置「iViz air(アイビズエアー)」の誕生で、看護・介護業界の「日常」は変わり始めている。
合計重量約348グラムで手に収まる大きさ。このエコー機器を、患者の腹部に当てると、膀胱内の残尿量や直腸内にある便がスマホ型タブレット機器の画面に映し出される。
この製品の企画から営業までを一貫して担当した。医療知識が皆無状態からスタートした当時を「右も左もわからなかった」と振り返る。
とにかく病院、クリニック、在宅介護、学会に足を運んだ。知識を深め、現場の実態と課題を追求し、話をもっと聞きたいと思った人には「新しいエコーを作りたいので話を聞かせてもらえませんか」と積極的に声をかけた。
情報がどんどん集まってくる中で感じた現場の課題は、冒頭の排泄関連だった。同時に、全国に約160万人いる看護師のほとんどが、資格があるもののエコーを使ったことがない現実を知った。
「我々がしたいエコーは、医師による診断目的だけではなく、看護・介護業界において患者のQOLを上げるための『可視化』です」
それからは、看護師がエコーを使えるよう全国で研修会を開いてきた。認知度は徐々に高まり、いち早く取り入れた介護施設では、看護師が使うようになってきている。
「将来、看護師が聴診器のようにエコーを1人1台持つ時代を作りたい。ゆくゆくは海外にも、超高齢社会の解決策の一つとして提案、普及させていきたいです」
メーカーの人間にとって、商品の購入先は通常「お客様」だが、あえて「仲間」と呼ぶ。それほどに信頼関係を築いている。
1年前、古巣の富士フイルムへ帰任する退路を断ち、現所属先に転籍した。立場や所属を超え、同志と共有した目的に向かって歩み続ける足は止まらない。(フリーランス記者・小野ヒデコ)
※AERA 2025年2月10日号