支持者の攻撃を恐れ

 筆者は2009年のオバマ元大統領のときから就任式の取材を続けてきたが、これほど多くの人を不幸にした就任式は初めてだ。トランプ氏1期目に比べて、「アメリカ・ファースト」の名の下、移民差別、排他主義、白人至上主義などを前面に出した大統領令を連打している。

 就任式の当日も異例ずくめで、大きな「分断」を感じた。いつもは人通りの多いワシントンのダウンタウンは、赤いMAGAハットやスカーフをまとった支持者の姿以外は、閑散としていた。ワシントンは、約9割が民主党大統領候補カマラ・ハリス前副大統領に投票したリベラル派支配の選挙区であり、近隣住民らしき姿は皆無。犬を散歩させている人に近づくと、トランプ支持者だった。

 米紙ワシントン・ポストによると、トランプ氏に反対する意見をメディアに話したり、反トランプ集会に参加したりして、トランプ支持者に攻撃されることを市民が恐れ、外出を控えたという。同紙にコメントした市民はみな、匿名だった。パキスタンからの移民の筆者の友人も、就任式の日はワシントンの自宅ではなく、フロリダ州の友人宅で過ごしていた。トランプ派に反対できない環境や自己検閲がもう始まっている。

特等席に並ぶ億万長者

 一方、ワシントンの外からやってきたトランプ支持者は、「人生で一度のイベント」と就任式当日を楽しんでいた。零下5度という極寒のため、通常は連邦議会議事堂(キャピトル)のテラスで行われる就任宣誓式は、屋内で行われた。キャピトル前のナショナル・モール公園の大スクリーンでそれを目撃しようとした数十万人の人のうち、公式観覧会場のアリーナに入れたのは2万人超だけ。宣誓を見たい人々が、スポーツバーに駆け込んだり、カフェや歩道などで各々のスマホで見守ったりする姿が目立った。

 異例だったことの一つは、宣誓するトランプ氏の後ろの特等席に並んでいた億万長者らだ。電気自動車(EV)大手テスラCEOで、トランプ政権でも要職に就くマスク氏、メタCEOのマーク・ザッカーバーグ氏、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏など億万長者らが画面に映る。筆者がいたスポーツバーでは、支持者から「イーローン!」などの歓声が上がる。トランプ氏が聖書に手を置かない異例の宣誓をした直後、「U.S.A.、U.S.A.!」の掛け声が長くわき起こった。

次のページ