講書始の儀に臨む天皇陛下と皇后雅子さまら皇族方=2025年1月10日午前10時34分、皇居・宮殿「松の間」

「講書始の儀」での講義について、宮内庁から矢野さんに連絡があったのは2年ほど前。講義の原稿をつくったのは1年半も前で、宮内庁などとの打ち合わせを進めてきた。

 宮内庁サイドからは、過剰な敬語を使わず、要旨を明確にして講義をしてほしいと求められたという。

「講義の時間は、ひとり15分です。講義をする私たちも、ぶっつけ本番では難しいですから、前の年に儀式を陪聴する機会があります。そこで内容の難易度、話す口調や速度などを確認することができたので、とてもありがたかった」(矢野さん)
 

「やり取りは、奥深いものでした」

 モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)、ビッグデータに象徴される「第4次産業革命」のまっただ中にあると言われている現代。「講書始の儀」で矢野さんは「産業革命サイクルと市場の質」というテーマで、18世紀から100年ごとに起きた産業革命のサイクルや、そのたびに社会を戦争や経済危機などが襲ってきたことなどについて講義をした。

「儀式では学術的な表現を取りましたが、たとえば小学生ですら持っているスマートフォンは爆発的に人びとの間で普及し、今や連絡ツールの役目を超えて、支払いや身分証明書など社会インフラとともに発展する存在へと進化しています。このように、いつの時代の産業革命も、技術革新(イノベーション)をけん引するのは発明をする側ではなくそれを利用する側。つまり、消費者であるということについても話をしました」

 矢野さんが意識したのは、15分という短い講義の時間のなかで、いかにスムーズに理解していただけるか、という点だった。

天皇陛下は、事前に原稿をお読みになっていらっしゃるためか、講義の間も思考を深めるようにうなずいておられるご様子でした。しかし、演者が一方的に話す形式の講義では、10分を過ぎると聴く側も息切れをしてしまうものですからね」

 そう思っていた矢野さんだったが、儀式の後の懇談の場で天皇陛下や雅子さまと言葉を交わした矢野さんは、おふたりが講義に対して「いろいろとお感じになっていた」ことが伝わり、とても感激したという。

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学ぶことを楽しむ愛子さま