北海道猟友会・札幌支部の「ヒグマ防除隊」の玉木康雄隊長=本人提供

証拠が揃わないとハンターに「手錠」

 市街地でのクマの駆除にはいくつもの困難がともなう。鳥獣保護管理法は市街地での猟銃の使用を禁止している。ハンターはみずからの判断で発砲することはできないため、警察官が警察官職務執行法に基づく発砲を命じる。

 その際、銃弾が後方に飛んでいくのを避ける「バックストップ」と呼ばれる地面が必要とされるし、跳ね返った弾が住宅や車に当たらないよう、軌道を計算しなければならない。

「市街地で発砲する場合、その違法性を阻却(そきゃく)できる証拠が揃わないと、私たちに手錠がかかってしまいます」

 玉木さんらは、発砲にいたる全ての記録が残るように準備を整えてから、任務を遂行する。

 22年9月、札幌ドームの敷地内でヒグマが目撃され、防除隊が出動した。札幌ドームは幹線道路に囲まれている。どこへ撃っても、「市街地のど真ん中で発砲、という状況」だった。

 玉木さんは「今回のミッションは、警察官職務執行法に基づく発砲になると思います。それでよろしいですか」と関係者に切り出し、了承を得た。3人のハンターの背後には警察官のほか、札幌市や調査会社の職員が張り付いたという。玉木さんは言う。

「クマの駆除は、行政、警察、猟友会が一枚岩でなければできないのです」

心臓を撃っても向かってくる

 玉木さんは、ヒグマを駆除できるのは、「猟友会のメンバーだけ」と話す。

 警察の特殊部隊(SAT)や自衛隊の隊員は銃器の取り扱いに慣れてはいるが、発砲の目的は犯人の確保や効率よく兵力を削減することで、相手を殺す訓練は受けていない。

 さらにヒグマを駆除する場合、その動きを熟知し、「バイタルポイント」と呼ばれる急所を確実に撃ち抜く必要がある。バイタルポイントとは、脳(脳幹)や心臓、肺などだ。

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バイタルポイントを外せば惨劇