発達障害のある人の困りごとは目で見えにくい。どうすれば力を発揮できるのか、会社や職場が一緒に考えることが必要だ(写真:Getty Images)
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 ここ数年、脳機能の発達に優劣をつけず、違いを尊重する概念「ニューロダイバーシティ」が広がりつつある。だが、障害者雇用はまだ未成熟だという。根付かせるにはどうすればいいのか。大人の発達障害に詳しい岩波明医師が語る。AERA 2025年1月20日号より。

【図表を見る】発達障害者の雇用はまだまだ少ない

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「ニューロダイバーシティ」は、脳機能の発達の偏りなどを疾患や障害とみなすのではなく、幅広く認め、違いを尊重して社会の中で生かしていこうという概念。1990年代にオーストラリアの社会学者によって提唱されました。

 日本ではここ数年、この概念が聞かれるようになってきましたが、そもそも「発達障害」という言葉自体が広く認知されるまで10年ほどかかりました。ニューロダイバーシティについても、その考えが世間に根付くまでにまだまだ時間がかかるだろうと思います。

 現状では障害者雇用のシステムはまだまだ未成熟なところが多く、十分機能しているとは言い難い。雇用する段階、雇用後含め、フォローアップをどうするか。われわれ医療側も当事者の就労後のフォローアップに努めていますが、やはり職場内でのフォローがなければすぐに辞めてしまう。障害者雇用を進めないといけないという目的を前に出すあまり、その後のケアができていないというケースはままあります。産業医などがいても、発達障害に関しての知識が不足していることがほとんど。医療界ですらようやく認識されてきたというのが今ですから。

 発達障害の中で、日本でも海外でも、主に研究されてきたのは自閉スペクトラム症(ASD)です。知的障害を同時に抱えているケースが多く、児童精神科や小児科を中心に研究が進みました。一方で、注意欠如多動症(ADHD)に関しては子どものデータではASD以上に数がいるのに、社会の中では目立たなくなる。それは、多動などは注意していればある程度は収まりますし、自分で気を付けているからです。本来は国内に500万人以上の当事者がいるはずなのに、見逃されてきたんです。

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どこまで周知するか、バランスも非常に大事