「夜逃げ屋日記」から(C)宮野シンイチ/KADOKAWA

夜逃げは「ゴール」ではない

   依頼者にとっては、「夜逃げ」がゴールではない。知り合いもいない環境で、新たに仕事を探し、生きていかねばならない。夜逃げ屋は、その第一歩を手助けするに過ぎないのだ。

     それでも、依頼者の多くが「夜逃げしてよかった」と話すという。

「夜逃げに至る人は、ものすごい覚悟を持っています。なかには数年もの間悩んで、苦しみ抜いて決断する人もいる。覚悟を決める原動力を持った人は、新しい人生を送りたい、という思いが強いのだと思います」(同)

 恋人から凄惨な暴力を受け続けた女性は、「うまくいかないことばかりだけど、今が一番幸せだと胸を張って言えます」と、夜逃げ後の思いを口にした。夜逃げのそのときは雰囲気が暗く大泣きしていた女性は、しばらく後に会った際、「お世話になりました」と元気そうにお礼を伝えてきた。

 いきなり幸せにはなれないが、少しずつ変わりながら、幸せに近づいていく。

夜逃げ屋は最後のセーフティーネット

 宮野さんは、夜逃げ屋が存在する意味を、こう語る。    

「警察を頼って解決したり、加害者と和解して、加害側が変わるのが一番いいことですが、なかなかそうはいきません。あらゆることを試してもうまくいかず、もはや誰の助けもなくなった。そんな『ぼろ雑巾』になった被害者の、最後の受け皿が夜逃げ屋なんです。最後のセーフティーネットとして、被害者が新しい人生を歩むきっかけをつくってあげる存在として、夜逃げ屋の存在意義があると思っています」    

 今日も夜逃げ屋の電話が鳴り、悲痛なメールが届く。夜逃げ屋の役割は、これからも続く。

(ライター・國府田英之)