では、逃げる間もなく、犯人の凶刃が届きそうになってしまったらどうすべきか。

 これは警察官も徹底して叩き込まれる手法であるが、モノで刃物を叩くことだ。モノというのは、身につけているバッグや買い物袋などである。初動で最優先されるのは犯人の第一撃を防ぐこと。したがって、ここでの「叩く」という動作は、攻撃ではなく防御を目的とする。

 その際に、相手の攻撃の動線(刃物の軌道)から自分の体を外すことが重要だ。とても難易度の高い動きになるが、凶器を叩きながら自分の体を犯人に対して斜めにして正面を見せないようにすると、急所に攻撃を受ける確率を下げることができる。

 そこまでできなくとも、刃物を叩き落とすだけでも効果はある。また、叩き落とすことができなくても、相手が落としそうになるだけで少しの時間を稼ぐことができるだろう。

 相手の第一撃を交わしても、また襲ってくる場合、基本的にはこの動きをくり返すことになる。相当に武道や格闘技の修練を積んでいる人でない限り、危険なので打突(だとつ)や投げといった技で犯人を制止しようとすべきではない。

丸腰の状態だったら、どう防御する?

 しかし、北九州市で中学生が襲われたときのように店でレジに並んでいたり、ちょっとトイレに立ったときなど、手にしているのは財布のみで、防御できるようなモノは何もないことがあるかもしれない。

 その際には、刃物を叩き落とさずとも、前述したように攻撃の動線(刃物の軌道)から自分の体を外すことに尽きる。その際、体を半身にして、意外かもしれないが犯人が刃物を持っている利き手側に回り込むように体をそらすのがいい。

 これは、攻撃の的をできる限り小さくすること、そして犯人が力を入れやすい方向から逃れる目的だ。

 もしあなたの利き手が右手だとすると、少し左側にいる人と、右手よりもさらに右側にいる人、どちらが攻撃しやすいだろうか。刃物を振り下ろしたり、突き刺したりする場合、利き手と反対側のほうが力を入れやすいため、利き手側に回り込むと攻撃力を落とすことができるのだ。

 警察官も刃物を取り出す危険のある人物に同行する際、利き手を見極めてそちら側を歩くように指導されている。

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