サウンド・クリエイター、fu_mouさん
サウンド・クリエイター、fu_mouさん
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『with open』fu_mou
『with open』fu_mou

 前回は李香蘭、二葉あき子など戦前戦中のガール・ポップにまでさかのぼったが、今回からは新コーナーに突入、再び時計の針を2016年に戻す。現代屈指のサウンド・クリエイター、fu_mou(フモウ)さんへのインタビューだ。

 Google ChromeのCMで一躍話題となったlivetune《Tell Your World》のリミックス、劇場版『とある魔術の禁書目録-エンデュミオンの奇蹟-』の劇中歌や 『蒼き鋼のアルペジオ』ED曲や『プリパラ』主題歌などを担当。平野綾、アップアップガールズ(仮)、私立恵比寿中学などにも楽曲を提供するいっぽう、ライヴをはじめとするソロ活動も精力的に展開し、自身の代表曲《Green Night Parade》はイギリス国営放送《BBC Radio 1》でもオンエアされた。

 そのfu_mouさんが8月3日、待望のCDアルバム『with open』をリリースした。正直申し上げて、ぼくはエレクトロに精通しているとは言えない。というか自分が音楽に親しみ始めた頃には、エレクトロというものはなかった。しかしキャラクターの立ったメロディ、歌詞はカテゴリーを飛び越えて、我が心に飛び込んできた。これはぜひ話をうかがいたいと思い、都内某所に足を運んだのだが、なんと途中でスペシャル・ゲスト(特に名を秘す)も登場、ますますエモーショナルな取材となった。楽しくお読みいただければ幸いだ。

―― アルバム『with open』制作のいきさつについて教えていただけますか?

fu_mou 去年、名古屋でアップアップガールズ(仮)がカウントダウン・イベントをしました。そこに僕も出演したんですが、出番が終わった時に、アプガのマネージャーの山田さんから唐突に「fu_mouさん、CD出さないんですか?」と言われて。「出したいんですけどね」、「じゃ、出しましょうよ」っていう話になって、その場にはタワーレコードのアプガ担当の吉野さんもいて、すぐ話が決まって。もともと自分名義のCDを出したいという気持ちはあったんですよ。
 最初に(自分名義の)リリースをしたのは2011年です(『Green Night Parade EP』)。その時は、ALTEMA Recordsという北海道のネットレーベルでした。そこにはPandaBoYさんのリミックスも入っていて、それがきっかけで山田さんにも声をかけていただけるようになって今に至るという感じですね。

―― CDとしては初めてのアルバムです。リリースを楽しみにしていた方も多いと思います。

fu_mou ずっと(自分の作品を)出していなかったんです。事務所に入ってからは、作家仕事の方で手一杯になってしまって。自分のライヴはちょくちょくやらせてもらっていて、そこに向けて曲を書き溜めてはいたので、それをどこかで出したいなと思っていたところに、山田さんからオファーをいただきました。

―― あの「アップアップガールズ(仮) UMF~アプガミュージックフェスティバル~」(名古屋ダイアモンドホール、元日の午前2時開始。アプガはその前の大みそかに同会場で約2時間のライヴ2本を行ない、UMFにはK-POPのダンスカヴァーユニット“UFZS”としても登場)は“真夜中の狂乱”という感じでした。michitomoさんが《まつり》や《サライ》でフロアをブチあげていたときに、舞台裏ではそういうクリエイティヴな話が進んでいたんですね。

fu_mou でも、当日の僕のコンディションは最悪だったんですよ。元々ちょっと風邪気味だったんですけど、名古屋に着くなりグロッキーになってしまって。泊りじゃなくて(ライヴ終了後に)そのまま帰るスケジュールだったんですが、ホテルを自分でとって、そこで夜公演が始まるまで休んで、舞台裏で本番まで休んで、ギリギリまで体力温存して本番に臨むっていう……。

―― ゼロ泊なのにホテルをとって。

fu_mou ゼロ泊だった。出演者もコンサートスタッフも皆、始発の次ぐらいで帰りました。帰りは泥のように寝ましたよ。すさまじいカウントダウンでした。

―― 『with open』の選曲や曲順はどのようになさいましたか? 

fu_mou 今回のアルバムのために書き溜めたというより、作ってきた曲を集めたという感じですね。いちばん古いのは2011年の《Abyssal Drop》、いちばん新しいのは去年の終わりくらいに作った《I wanna see》ですね。その時々で思い思いで作った曲を集めたんですが、今回曲順を並べてみたら、奇跡的にいい流れができました。全部、すでにライヴではパフォーマンス済みの曲です。ライヴのために作っていったラフ音源を、今回ちゃんと仕上げたという感じですね。《Abyssal Drop》に関しては、一度別のところでCD化しているんです。秋葉原MOGRAという僕が一番お世話になっているクラブがあって、そこの公式ミックスCDを2012年に出したんです(『MOGRA MIX VOL.1 mixed by DJ WILDPARTY』)。その時に、エクスクルーシヴ・トラックとして《Abyssal Drop》が入って、iTunesでも配信されました。でも今回のヴァージョンはその時とだいぶ変えていますね。アレンジもテンポも違います。

―― 《Abyssal Drop》の“Abyssal”という単語を辞書で引くと“深海”“計り知れない”“底知れぬほど深い”などと説明されています。すごく想像力をかきたてるタイトルですが、どのようにして構想されたのですか?

fu_mou 2011年3月の震災の直後に作りました。その少し前から東北在住のDJの方たちが北関東でやっているイベントに呼んでもらえるようになって、その時(震災の頃)の、「向こうの人に連絡取れないし、こちらからも行けない」という、やるせない気持ちと、当時 所属していた別の事務所での「箸にも棒にもひっかからないという感じ、くすぶっていた思い」がごちゃまぜになって出てきたという感じです。

―― それをあえて、最新アルバム『with open』のリード曲としてオープニングに持ってきたのは?

fu_mou 《Green Night Parade》以降、まとまったリリースをする時が来たら、《Abyssal Drop》をリード・トラックに選びたいとずっと思っていたんです。

―― 『with open』のジャケットと、《Abyssal Drop》のミュージックビデオ(MV)にはアップアップガールズ(仮)の佐保明梨さんが登場しています。正直言って驚きました。

fu_mou MVを作る話は、ジャケットの打ち合わせをしていた時に出たんです。確か6月のどこかだったと思いますが、佐保さんの隠れ美人的なところを出して行こうという案が出て、アートディレクターの近藤幸二郎さんも入って話しあって。

―― 運動神経抜群でユニークなツイッターを書く“陽”のイメージのある佐保さんが、ものすごく陰影に富んだ表情をしていて、引き込まれました。これで彼女のファンはさらに激増すると思います。でも、fu_mouさんの姿は画面で確認できなかったんですが。

fu_mou 画面には出ていないです。このMV、最初の段階ではフル・ヴァージョンでという話だったんですけど、《Abyssal Drop》は5分くらいかかる長い曲なので、それならティザー動画みたいにしようということで、現在公開されている形になりました。

(ここで突如、取材部屋のドアが開く)

スペシャル・ゲスト こんにちはー、お疲れさまです。

fu_mou あー、佐保さん! お久しぶりです。

スペシャル・ゲスト こちらこそお久しぶりです。レコーディングが終わって、ここに来ました。
<次回に続く> [次回9/5(月)更新予定]

■『with open』リリース記念 スペシャルコラボレーションライブ fu_mou × アップアップガールズ(仮)
出演:fu_mou、アップアップガールズ(仮)
日程:2016年8月15日(月)開場18:30 / 開演19:00
会場:初台 The DOORS
チケット料金:全自由 3,000円(税込)
※入場時にドリンク代として別途600円必要