7月19日、第155回芥川龍之介賞・直木三十五賞の選考会が開かれ、芥川賞に村田沙耶香さんの『コンビニ人間』が、直木賞に荻原浩さんの『海の見える理髪店』が選ばれました。
下北沢にある本屋B&Bでは、ニコニコ生放送と連動して、選考会を見守りながらパブリックビューイングを行うトークイベントを開催。書評家・豊崎由美さん、翻訳家・大森望さん、書評家・杉江松恋さんが、候補作そして受賞作を巡り意見を交わし合いました。
まず、芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの『コンビニ人間』については予想通りだったというお三方。「村田さんは三島賞をとるまでは、結構苦労されている方なので愛読者としては嬉しい」と豊崎さん。大森さんは、村田さんらしさも残しつつ、わかりやすい同作は、絶妙なユーモア感覚がネット民にも受けるのではないかと述べ、直木賞の候補になってもいいほどエンタメとしても面白く読める作品だと評しました。
同時に、候補作のひとつであった山崎ナオコーラさんの『美しい距離』については、3人共に"もっと評価すべきだったのではないか"と指摘。また、芥川賞候補作のなかで酷評を得てしまったのは、高橋弘希さんの『短冊流し』。大森さんは、自分の子どもが病気になったときのことを思い出し、嫌なリアル感、生々しさを感じたものの、他の候補作に比べると見劣りがしてしまうと述べました。
一方、直木賞に関しては、「直木賞はこういう賞にしたんだなと思いました」と開口一番、皮肉を交えて語る豊崎さん。本来は"受賞作なし"にすべきほど、今回の候補作はすべてクオリティが足りないながらも、世の中一般には人気がある作家ばかり......そうした世の中の人気に迎合するか、文藝としてのクオリティを保つか、その選択を迫られたとき、直木賞は前者を選んだのではないかと指摘しました。
杉江さんは、直木賞受賞作である荻原浩さんの『海の見える理髪店』について、技巧としては凄い短編集だとしたうえで、設定の変わった路線のものを全て否定された結果、著者は王道の浅田次郎さんの路線で勝負すべきだという結論に至ったのではないかと分析。
一方、大森さんは表題作を読んでこれはないなと思ったと暴露。しかし一番直木賞らしい作品と考えると、これかなと思ったといいます。「芥川賞は芥川賞らしく、直木賞は直木賞らしかったのではないか」と語る大森さん。そういう意味では"正しい結果だった"のではないかと締めくくりました。
時折、ドキっとするような三者の本音トークに、会場に詰めかけた方、またニコ生をご覧になっていた文藝ファンも大喜びとなったイベントとなりました。