頑張ったら体調を壊す、頑張りたいのに頑張れない自分に対しての思いを表現した(illustration 儚さん提供
頑張ったら体調を壊す、頑張りたいのに頑張れない自分に対しての思いを表現した(illustration 儚さん提供

■「均衡論はおかしい」

 生活保護は「最後のセーフティーネット」だ。1950年に施行した生活保護法は第1条で「生活に困窮するすべての国民」に最低限度の生活を保障すると規定する。それなのになぜ、大学生は排除されるのか。

 厚労省保護課の担当者は、AERAの取材にこう答えた。

「まず一般世帯にも大学に進学せず働く人がいたり、進学してもアルバイトや奨学金で学費や生活費を賄う学生もいたり、そうした人との均衡が取れないため認められないという考えです」

 均衡が取れない──。「均衡論」と言われ、生活保護を論じる際にしばしば出てくる問題だ。

 生活保護行政に詳しい立命館大学准教授の桜井啓太さん(社会福祉学)は「より厳しい人がいるから認めない、という均衡論はおかしい」と指摘する。

「現在、高校への進学率は98.9%(21年)で中学卒業後に働く人もわずかですがいます。しかし、生活保護世帯の高校生の生活保護は認められます。均衡論でいえば、高校生の生活保護も対象から外されないといけないことになります」

 大学生は生活保護の対象外とするルールは、60年前の63年に出された旧厚生省の通知に基づく。当時の大学や短大への進学率は15%程度で大学は「贅沢品」。だが、今は83.8%(21年)と大きく伸びた。それにもかかわらず、制度の運用は変わっていない。生活保護世帯の大学などへの進学率は39.9%(21年)にとどまる。

「しっかりとしたエビデンスをつくり、それに基づき判断するべきです」(桜井さん)

■「修学支援制度」も理由

 厚労省が大学生を生活保護の対象から除外するのは、もう一つ理由がある。国が20年度から始めた返済不要の給付型奨学金などで支援する「修学支援制度」だ。先の厚労省担当者は、「教育政策の中で支援していきたい」と話す。

 だが、桜井さんは「そこから漏れる人を救うのが生活保護だ」と語る。

「奨学金は手続きから支給まで何カ月も要し、それに対し急場をしのぐ制度としてあるのが生活保護です。例えば、奨学金やバイトで生活が安定するまで支給する。困っている人が困っている時だけ、一時的にでも利用できる制度であるべきです」

 大学生の生活保護は、親から子への「貧困の連鎖」を断つためにも不可欠だと桜井さんは指摘する。

「生活保護の申請すら受けてもらえないことが、大きな問題だと考えています」

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