「親友」という言葉の危うさ

 子どもが築いた関係を通じて、親が成長を喜ぶ心情が伝わるかと思います。学校での様子を親が気にかけるのは当然のことでしょう。

 でも、今の親子の会話には、子どもの話す力を伸ばすうえで危うい点があります。それは、子どもに対する「親友」ということばの価値づけです。

 一見、「話す」という行為とまったく関係がないように思えますが、子どもに「話す」という行為の価値を伝えるのに密接なつながりがあるのです。

 まずは「親友」ということばの意味と価値から考えてみましょう。「親友」というのは、基本的にどんなときも気持ちが離れない関係を言いますよね。自分が思っていることは素直に伝え、その気持ちを相手は正面から受け止めることになります。

「今、あなたに親友と呼べる人はどれだけいますか?」

 突然このように尋ねられたとしたら、なんだか身構えてしまいますよね。おそらく、何人かの友人を思い浮かべたことでしょう。迷いなくすぐに「この人だ」と断言できた人もいるかもしれません。

 でも、「本当にそう言えるのかな……」と、あらためて考え直した人の方が実際には多いのではないでしょうか。

 中・高生であれば「親友」ということばを日常的に使っている人もいるかもしれませんね。しかし、平然とこのことばを使う感覚に不安を覚えないでしょうか。

 これは人を疑えという意味ではありません。そうではなく、あらためて「親友」ということばに真剣に向き合うことの大切さを伝えたいのです。

「親友」とは簡単につくることができるものではありません。長い期間を経て、お互いの考えを受け止め、ときには反発し合いながらも前に進む仲のことを指すのではないでしょうか。

すぐに親友になれる関係は「親友」と呼べない

 もちろん、出会ったときから意気投合して、一度も気持ちが離れたことのない仲の人たちもいるかもしれませんね。しかし、そうであっても、はじめから「親友」とはならないはずです。

 つまり、「親友」は「友達」という表現とは明らかに別の段階のものです。だから、すぐに親友になれるような関係は、「親友」とは呼べないと思うのです。

 警鐘を鳴らしているのは、簡単に「親友」ということばを使い過ぎることです。

 EちゃんとNちゃんが考え方の違いから大きなけんかをしてしまったり、気持ちが離れてしまったりすることもあるかもしれません。早く仲直りができればよいですが、場合によってはむずかしいこともあります。

 Eちゃんが「『親友』なんてまたすぐにできるからいいや」なんて考えたとしたら、それこそ「親友」は軽いことばになってしまいます。反対に、親が「ずっとNちゃんといっしょにいたほうがいい」と強く伝え過ぎることも問題です。

 こうすることで、Eちゃん自身に「Nちゃん以外に行き場所はもうない」と学習をさせているのです。それは、子どもの交友関係の可能性を閉じてしまうことになります。

 決して「親友」の存在を否定しているわけではありません。特別仲のいい関係が築けたことはすてきなことです。事実として、生涯にわたっての付き合いになることもあるのですから。

 でも、「親友」ということばの本当の意味と価値を知るのは、もう少し先でも十分だと思うのです。子どもの成長に関わることだからこそ、大人がことばの重みを正しく捉えさせることが必要なのです。

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