雅子さまは今回、内廷皇族の菊紋である十六葉八重表菊(じゅうろくようやえおもてぎく)の三つ紋の訪問着をお召しだった。
昭和の時代から皇室に着物をつくり、納めてきた「染の聚楽」代表の高橋泰三さんは、雅子さまの思いを見て取る。
「お客さまを招く側は、控えめな装いが基本です。淡い水浅葱色の和服を選ばれたのは、主催者側としての心構えにかなっていらっしゃいます。
流水文様は、夏草や秋草と組み合わせて風景を構築する意匠。染めで仕上げた花は、初夏の草花である花菖蒲でしょうか。もう少し遅いとお召しになれませんので、ちょうどよい柄をお召しですね。菊とともに一部を金駒繍で仕上げられ、流水文様と品よく調和しています」
なかでも泰三さんが注目したのは、雅子さまの帯だ。皇太子妃時代から、和服に帯留めを合わせることはほとんどなかったという。
「本来は、帯留めや宝石は正式な場ではつけず、観劇や食事会などおしゃれとして和服を着る場合に楽しむものでした。主催者である皇后雅子さまが、帯留めもアクセサリーもつけていらっしゃらないのは、さすがでいらっしゃると感じました」
京都の着物には、薄く削りだした貝の真珠層を糸状に細く切って帯や着物に織り込む「螺鈿(らでん)織り」と呼ばれる技術がある。金の合金を1万分の1ミリの薄さまで薄く延ばす石川の金箔(きんぱく)や各地の染めや織り、刺繍など、着物は日本の伝統技術そのものだ。
「着物は、きらきらと輝く螺鈿織りや金箔、刺繍といった技巧が装飾そのものでしたから、石の宝石は必要なかったのです」(泰三さん)
平成の皇后であった美智子さまも、結婚から間もない時期を除いては、公務の場で和服に帯留めやアクセサリーをつけることはなかったという。
ファンが多い女性皇族も
一方で、女性皇族の装いのきらびやかさは、多くのファンを惹きつけている。