僕自身も、金融教育の一環として学校に呼ばれて、講演をすることがしばしばある。さすがに中学生はいないが、大学生くらいになると「老後の不安」を口にする人が出てくる。彼らは口々に、「投資を始めているんです」という。早く投資を始め、奨学金を返済するためにバイトに時間を使ったり節約したりしているそうだ。

 投資を学んで、お金を増やすこと自体は決して悪いことではない。しかし、若い人たちにとっては、知識や能力、経験などを蓄えて「働いてお金を稼ぐ力」を増やすことの方が、将来お金を増やす近道だ(運用できる資産が数億円でもあるなら、投資の勉強をした方がいいかもしれないが)。

 そのためにわざわざ奨学金を借りて大学に行っているのに、バイトや投資でお金を増やすことに時間を使っているのでは、本末転倒ではないだろうか。「お金を蓄えておけば、人生の選択肢が増える」と言われると正しそうに聞こえるが、目に見えるお金を蓄えることを優先するあまり、他の大事なもの(知識や経験、人間関係)を蓄えられなければ、選択肢は逆に減るかもしれない。そうならないために、広い意味の金融教育をしっかりと行うべきだろう。

 先日、参加した国際シンポジウム「朝日地球会議2024」の収録で、金融教育の文脈で「若いうちから投資を始めることが必要だ」という識者に対して、苦言を呈したのはそのためだ。そのときの内容は、10月28日正午から配信が開始される。そのタイトルもまた、「新NISA時代のサバイバル術」という不安を煽るものなのだが。

AERA 2024年11月4日号

田内さん出演の朝日地球会議2024「新NISA時代のサバイバル術 資産運用立国のリアル」を配信しています。新NISAをはじめ、投資への関心が高まる中、お金に振り回されずに生き抜くヒントを示します。お申し込みはこちらから。https://t.asahi.com/wob3。

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