トレドの街を丘の上から見る その昔は要塞都市で攻防のチだったのだなあ (撮影/谷川賢作)
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トレドの街を丘の上から見る その昔は要塞都市で攻防のチだったのだなあ (撮影/谷川賢作)
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見習いの「ノビリェーロ」と牛さん 手前はひまわりの種をとばしながらヤジる男 (撮影/谷川賢作)
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見習いの「ノビリェーロ」と牛さん 手前はひまわりの種をとばしながらヤジる男 (撮影/谷川賢作)
「ピカドール」と牛さん 馬は目隠しをされている「ん? わし今どんな状況なん? えっ牛にど突かれとるやて!」(撮影/谷川賢作)
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「ピカドール」と牛さん 馬は目隠しをされている「ん? わし今どんな状況なん? えっ牛にど突かれとるやて!」(撮影/谷川賢作)
ラストは正闘牛士「マタドール」の凱旋の場内一周 (撮影/谷川賢作)
ラストは正闘牛士「マタドール」の凱旋の場内一周 (撮影/谷川賢作)

 人生初スペインに行ってきました。今回も仕事ではありません。かみさんと二人旅。なんとなく一年に一度、まだ我々の未踏の地に行ってみようということになっています(ほめちぎ第24回第26回参照)。あんたたち仲いいねえ、と、時々勘違いされますが、んなことはありません。私なんざあいつも「あなた、私とうまくやっていくことだけが、あなたに残されたただ一つの道なのよ」と脅しをかけられておりやす。野球でいうと「九回裏二死満塁ツースリー」(苦笑)

 若い頃は、かみさんが「計画屋」私が「のほほん派」で、どこに行っても「あそこ行こ。これ見よ」とビシバシしきるかみさんに、私がめんどくさがりながらも、ふらふらと付いて行く、のがパターンであったが、近頃はまったく逆。私が夜中、ホテルの部屋で酒をぐびぐびとあおりながら、「あんた飲み過ぎ」と言われながら、地図とiPad首っ引きで翌日の行動予定を決めまくる昨今です。「計画」することが楽しくなるなんて、おいらも年取ったもんだぜ(ため息)

 ですが、小さんの「こぐまのロシアより愛を込めて」シリーズをお読み頂くとわかるように、旅の醍醐味は予期せぬハプニング。まず初日はマドリードだったのですが、午前中に、とにかくうちのデザイン部のyamasin(g)さんが強く推薦するトレド(「もし一日しかスペインにいられないのだったら、まよわずトレドに行け」と言われるくらい、スペインが凝縮されている街)に行ってみよう、ということでトレドに直行(電車でマドリードから30分の距離にある)。風光明媚な世界遺産の街トレドを初手から歩き回り、満喫したのですが、正直、直射日光と修学旅行生ふくむ観光客の人いきれにもやられてしまったのは確か。

 マドリードに戻り、午後はスペインの天真爛漫真っ直ぐな陽光を避けて、美術館に行こうとしていたのですが、ここでなんと、ピカソやダリ、ミロが見られる、お目当ての「ソフィア王妃芸術センター」が休館日ということが発覚。ありゃ~、早くも計画倒れ。でも、ここでめげないのが老夫婦予備軍な二人組。若い時だったら、このこと一つでお互いに苛立ち、ケンカに発展だっただろうが、今では「そんじゃシエスタの国だし、ホテル帰ってちょっと昼寝すっか」であっさり合意。

 で、目が覚めると早夕方。ちょっと近くに散歩にでも行くか、と、もそもそと起きだし、のんびり街を歩いていると、まったく下調べもしていなかったのになんと闘牛場発見!

 で、ここからが“天然二人組”の面目躍如なのだが、まさか闘牛がほんとに行われているとは知らない我々「なんかゲートもあいてるし、係員らしき人もいるし、観光客むけのバックステージツァーでもあるんちゃう?」と、それらしき、日本の宝くじ売り場のようなボックス型のチケット売り場を見つけ「二枚ちょうだい」すると「あい、50ユーロ(約6000円)」と中の兄ちゃん。ん? 闘牛場の中見せるだけにしては、ちょっと高くないか、と、いぶかしがりながらも、「ま、いいか、ここは一つおのぼりさんらしく行ってみっか」。ゲートをくぐると、大きな内扉の前で「お前らちょっとここで待て。今はまだ入れん。あっちのモニター見てろ」「は? モニター?? ありゃまあ! ほんとに闘牛やってんじゃん。わお!!」と驚くまぬけな我々。それにしても、普通は大歓声がスタジアムの外に響いてきそうなものなのだが、闘牛は、やはり牛を興奮させないように、観客にも、むやみに騒がないという暗黙の了解があるのだろうか? 意外なほど外は静かだったのだ。内扉前で“次の牛”の番まで待つのもルールみたい。

 ようやく場内に入れてもらえると、これがなんと、もう立錐の余地のない人の波波波。かき分け、かき分け、ようやく自分たちの席にたどり着いてわかったのだが、どうやらダフ屋からチケットを買ったらしい我々。長いコンクリの座席をなんとなく線で区切ってあるだけの席なので、もう誰がどこの席やらようわからん状態。定員完全にオーバー。それでも、なんとか二人分のスペースを確保してくれる優しきスペイン人。

 さて超満員のスタジアムで「これぞスペイン!」を実感したのは束の間、落ち着きを取り戻し周りを見渡すと、まあとにかく、ヒマワリの種を食いまくっては、種ぺっぺと吐き出すわ、タバコは吸いまくる、ビールは飲みまくる、もう周辺はえらいことになっとりますだす。酔っぱらってヤジとばすおっちゃんもチラホラいるし。闘牛=庶民の娯楽。確認。

 で、肝心の闘牛。一見淡々と粛々と行われているのだが、う~ん、やっぱりTVでちょこっと見るのとはまったく違う。二本のツノもずいぶんと営利に長くとんがっていて、いかにも重そうな牛がトップスピードにのって走る瞬間はめちゃスリリングでコワイし、背筋のピンと伸びた“キザかっこいい”エース闘牛士は衣装も華やかでエレガント。

 が、残酷さもハンパない。映像ではなく眼前で繰り広げられていることだけに再認識。

 牛の脊椎の急所部分にあらかじめ目印フラッグが軽く刺してあって「ここ、ここよ。ここ刺したら確実に死ぬけんね」って、おい闘牛士の先生方、それはちょっと卑怯ちゃうか!

 こんなにも整然と台本どおりに進行する「ショー」だということもはじめて知った。最初にまず「闘牛士チーム」と牛が入場してくると、まず「ノビリェーロ」と言われる「見習い君たち」数人が牛を煽る係。奴等、こわいもんだから、すぐに小さな塀の内側に隠れながら、そこから牛をおずおずと、しかし憎々しげに挑発。次に「ピカドール」という馬に乗った闘牛士が牛と対決し、馬上から牛の背中にまず一撃、二撃。目隠しをされて、もちろん防具はしっかりと装着しているのだけど、牛にど突かれまくる馬も、はっきり言って大迷惑だろう。そして「パンデリリェーロ」という助手が登場。なにやら飾りのついた銛を二本、牛の背中の急所をはずして刺す係なのだが、これがなんと「牛に活を入れる係」なのだ。馬上からやられてちょっと意気消沈してるのを、再度鼓舞するということらしい。う~む。なんたることか。

 そしてお待たせしました。ついに正闘牛士の「マタドール」が颯爽と登場。牛と1対1で対決する10数分。ここがハイライト。やられてもやられても、ただただ「赤い布」にのみ反応、突進を繰り返す牛がだんだんあわれになってきて「おい牛! 布ちゃうよ。人間や人間。人間にむかって行きなはれ!」とついつい牛の応援をしてしまう我々。

 そして疲労困憊の末、最後に例の目印の急所にとどめを刺される牛さん。そんでも震えながらようやく立っている牛さんが、ついにはバッタリと力つき倒れる姿はほんとにせつない。その瞬間、満場の観客はスタンディングオベーション。静かでやわらかい拍手をおくるのであ~る。と、まあこれが「闘牛」の筋書き。

 ああ。遥か彼の国の「文化」とはいえ、やるせないなあ。でも百聞は一見にしかず。あくまでも物見遊山な二人組は、複雑な心境で闘牛場を背にするのであった。(グラナダ編に続く) [次回6/20(月)更新予定]