ジャーナリスト、東京大学多様性包摂共創センター准教授:中野円佳さん(39)(なかの・まどか)/1984年、東京都生まれ。2015~22年、シンガポール在住。現地から取材したキッズラインを巡る報道で「PEPジャーナリズム大賞2021」特別賞受賞。著書に『教育大国シンガポール』など(撮影/写真映像部・松永卓也)

タイミングを逃さない

小島:悩ましいですよね。ただ、外国で暮らしたり、言語や文化のマイノリティーになる経験は苦労もあるけれど、長い目で見たら得るものもあると思います。半年でもいいんですよ。半年行って合わなければ戻ってくればいい。うちもそのつもりでしたから。

 私自身は生まれてから3年間をオーストラリアで、小学校の1年から3年までシンガポールと香港で暮らしました。たったそれだけでも異文化・多文化社会で過ごしたことが、大きな財産だということに後で気がついたんです。

 もし今、海外での教育や仕事を考えている人は、それができる状況なら一度やってみてもいいと思う。今ならできる!ってタイミングは人生に何回も訪れないので、逃さず跳んでみるのもありだと思います。

中野:シンガポールにいた家族で、今は北欧に住んでいる人がいます。駐在ではなくて、グローバルに動き続けているんです。それは、ギロギアッパ(雁の父さん:妻子を海外に留学させて一人韓国で働く孤独な父親たち)みたいな子どものために自分を犠牲にしてということではないんですよね。私は夫が会社勤めですし、その駐在ということでしか決断できませんでしたし、今は私自身の大学勤務もあり、自由に家族で移住しちゃおうという発想になかなかなれないので、そこまで振り切れる人にリスペクトがあります。

長い目で見ればプラス

小島:これから大事なことって、「ああも、こうも」生きられるんだっていうことだと思うんです。国の制度もそうしていくべきだし、大人が子どもに言ってあげられることや、あるいは自分の人生を考える上でも、「ああも、こうも」生きたっていいということはすごく大事。かつて「この道しかない」と言った政治家がいましたけど、「この道しかない」っていう社会は、一歩踏み出したら奈落です。そんなの苦しいですよね。「自分は、我が子は、この道しかない」って思い込んでいる人は、それを外せば選択肢が増える。奈落じゃなくて、人生は地続きです。

 海外で働いてみて、合わなかったら戻ってきたらいい。その経験は無駄じゃない。大人だって冒険していいんですよね。中野さんみたいに行ってみたら思いがけずいい仕事ができることもある。実際にそこに行ってみないとわからないことも、ありますものね。

中野:そうですね。私は行って良かったと思っていますし、子どもたちに関しても長い目で見れば、きっとプラスになると思います。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2024年10月28日号より抜粋

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