■若者の利用制限の法律
TikTokの周受資CEOは3月23日、米下院エネルギー・商業委員会で開かれた公聴会に出席。米国1億5千万人の利用者の安全と情報保護に力を尽くしていると繰り返し、中国共産党とデータ共有をしていないと重ねて強調した。
だが、議員らはCEOの言葉をさえぎり、中国政府との関係や若年層への悪影響について5時間以上問い詰めた。キャシー・キャスター議員(民主党)は、
「子どもへの悪影響を最小限にとどめるようデザインできたはずなのに、利益追求のために子どもを病みつきにさせる方針を取った」
と厳しく責めた。
また、米西部ユタ州ではTikTokだけではなく、若い人に人気のインスタグラムやスナップチャットなど、ソーシャルメディア企業全てが衝撃を受ける法律が成立した。
スペンサー・コックス州知事(共和党)は3月23日、未成年のソーシャルメディアを保護者が閲覧できるという法律に署名。満面の笑みで、
「子どもをソーシャルメディアの害から守ろう」
と宣言した。
法律は、未成年がソーシャルメディアのアカウントを開く場合、「親の同意」が必要としている。また、午後10時半以降の夜間は未成年がソーシャルメディアを利用するのを禁止した。
「若者のうつ病のほか、精神衛生上の問題は増加傾向にあり、ソーシャルメディア企業は、自分たちの製品が有害であることを知っている」
とコックス知事は述べた。
■規制反対の声も上がる
彼をはじめ規制賛成派は、子どもの精神衛生問題を最も懸念している。特に女子や若い女性は、ソーシャルメディアに氾濫(はんらん)する美容やダイエット情報で自分の体形や容姿について失望する場合が多く、自殺率も上昇しているという。
ただ、規制反対の声も上がっている。子どもの「プライバシー侵害」につながるとの主張だ。家庭内暴力(DV)問題を抱える家庭では、子どもはソーシャルメディアによる友だちや支援者とのつながりを頼みの綱に生活している。親がメッセージなどを閲覧できるとなると、むしろ子どもの身に危険が及ぶ可能性もある。
こうした声にもかかわらず、ユタ州が独自の法律を打ち出したのは、政府による規制の動きが遅いと判断したからだ。
今後、同州のような動きは他の州や地方自治体に広がる可能性が大きい。
20年近く前に誕生したソーシャルメディアだけで、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が始まったところ。そこに生成AIの脅威が浮上した。一時停止のコントロールや規制を誰がどこで責任を持って実施できるのか。冒頭のゲイツ氏でさえ「世界中のAI研究所が、開発を停止することができるはずがない」とする。
生成AIはもう野に放たれた。世界が熱に浮かされて開発の行方を追っている一方で、「危機」の可能性について知識を深めていかなくてはならない。(ジャーナリスト・津山恵子)(ニューヨーク)
※AERA 2023年4月17日号