マスク氏が外部アドバイザーを務める米非営利団体(NPO)の「フューチャー・オブ・ライフ・インスティテュート」は公開書簡で、AIが「社会と人類に深刻なリスク」をもたらすと主張する。
「開発者を含む誰もが、理解、予測、コントロールができない、そしてこれまで以上に強力なデジタルマインドを開発し、展開するために、制御不能な競争にとらわれてしまっている」(公開書簡)
確かに、チャットGPTの出現で、テックの巨人、マイクロソフトとグーグルが間髪いれず、AI検索エンジンを発表したのは驚きだ。00年代にフェイスブック(現メタ)などソーシャルメディアが誕生したころの興奮が巻き起こっている。
公開書簡は、
「迅速に一時停止されない場合、政府が介入して一時禁止の措置をとる必要がある」
と、あろうことか政府による民間活動の規制さえ訴える。
具体的には、オンラインで銃器を合法的に買う方法を作文する、家庭で簡単に手に入る製品で違法な薬品を生成する方法を伝授する──などを懸念する声が大きい。
■TikTokがやり玉
現実はどうか。
イタリアのデータ保護局はチャットGPTの使用を一時禁止したが、米政府はAIの規制に関してほとんど何もしていない。なぜなら、フェイスブックの誕生から19年経った今ごろ、バイデン政権と議会はソーシャルメディアの規制に乗り出そうとしている状況だからだ。
現在は若い人に最も人気の動画シェアアプリ「TikTok(ティックトック)」をやり玉に挙げ、超党派で禁止の機運が高まっている。
バイデン政権の規制当局である対米外国投資委員会(CFIUS)は、TikTokを所有する中国企業バイトダンス(北京字節跳動科技)に対し、TikTokを売却するか、そうでなければ米国内でTikTokを禁止すると伝えた(米紙ウォールストリート・ジャーナル)。
個人情報などが中国当局に漏洩(ろうえい)しているという懸念が背景にある。バイトダンスには、中国国外の多国籍な金融機関も投資している。しかし、TikTokを米国で存続させるためには、売却か法廷闘争という方向に追い込まれている。