好きなことを自発的に知ろうとするのが勉強
その後、渡米してニューヨーク市立大学とペンシルベニア州立大学に入り直す。だが、米国の学びは日本とはまったく違い、講義で教授に意見してディスカッションになっても、ウェルカムな空気があった。「その意見おもしろいね!」「君が授業をしたら?」と盛り上がった。なんだ、自分の自由な発想で学問に向きあっていいんだ――。この体験が原点となる。
帰国後、学ぶ喜びを伝えたいと学習塾に就職した。ところが「違和感しかなかった」。
「黒板を叩いて怒鳴ることもあるスパルタ塾でした。集団授業で、カリキュラムについていけない子どもも当然出てきます。好きなことを自発的に知ろうとするのが勉強のはずなのに、塾でやっていることはまるで違ったんです」
できる子をほったらかしにしない
3カ月で辞め、2000年に個別指導のりんご塾を立ち上げた。義務感で来させるのではなく、子どもが自ら来たいと思うような塾を目指した。教材は生徒一人ひとりに合ったものを選ぶ。パズル形式の問題を自作して解かせた。
10年もの間、塾の時間は決めなかった。「開いている時間はいつ来てもいいよ」と生徒に伝え、出入りが自由。さらに、飲食は自由、あいさつをしないことも、よしとした。
一方で田邉さんは、一般的な学習塾は「できる子がほったらかしになる構造になりやすい」という課題があると指摘する。
「学校も塾も、最上位の子どもたちは特段の指導がなくても合格実績につながるため、そうではない子どもたちの指導に力を入れがちです。最上位の子どもたちは手ごたえを感じられず、つまらないと感じてしまう。りんご塾は、そんなできる子どもたちにとっても、才能をさらに伸ばせるような居場所でありたい」
どんな子どもの「天才性」もほったらかしにしない。それが、りんご塾に豊かな才能を持つ子が集まり続ける理由だ。
(ライター・梶塚美帆)