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 ハイダル(アリ・ジュネージョー)は失業中。妻は仕事にやりがいを持っているが家父長制を重んじる彼の父はよく思っていない。やがて仕事を見つけたハイダルはそこでトランスジェンダーの女性ビバと出会い──。昨年の米アカデミー賞国際長編映画賞パキスタン代表&ショートリスト選出となった「ジョイランド わたしの願い」。脚本も務めたサーイム・サーディク監督に本作の見どころを聞いた。

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 私はパキスタンで生まれ育ちラホールに住んでいます。本作は私がこれまで見たり感じたりしたことからインスピレーションを得ました。一見幸せそうに見える人でも実は家父長制における「男はこうあるべき、女はこうあるべき」という規範に苦しんでいます。私自身もそうです。誰の利益にもならないのに家父長制のシステムはいまだ世界中に存在し、闘いや対立が起こっている。そのことについてシェアしたいと思いました。

 本作はフィクションなので私自身にハイダルと全く同じ苦しみがあったわけではありません。でも例えば少年のころクリケットに興味がなかっただけで「男らしくない」と見られてしまう。そんな些細なことからはじまって、私は常になにかがフィットしない、ここには自分の居場所がないと感じてきました。もちろん女性にも同じ悩みがあると思います。劇中に登場するハイダルの兄嫁ヌチは家父長制のなかで「私は与えられた役割でOKです」と言っているように見える。しかしそういう女性でも実は苦しみを持っているのです。

サーイム・サーディク(監督・脚本)Saim Sadiq/ラホール経営科学大学、コロンビア大学で学び、初の長編となる本作で第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞ほか多数受賞。18日から全国順次公開

 パキスタンは非常に矛盾に満ちた国といえます。すごく進歩的な面があり、2018年から世界でも珍しく公的な身分証明書に男性でも女性でもない「第三の性」の記載が認められました。本作でトランスジェンダーのビバを演じたアリーナ・ハーンは“ミストランスパキスタン”も受賞しているロールモデルです。しかしその反動ともいえるヘイトクライムもあります。「社会にいるのは知っているけれど自分の家やオフィスには迎え入れたくない」という扱いを受け、経済的な機会を奪われることもある。ただ10年前より状況は少しずつですが変化している。そして最も安定して継続的な変化は、女性たちが起こした変化なのです。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年10月14日号