また、報道番組ではないが、3月10日の「英雄たちの選択」(NHK BSプレミアム)も興味深く見た。過去の津波の記録を読み解いた岩手県普代村の和田幸得村長が、多くの反対を押し切って巨大な防潮堤を築いた結果、大震災で一人の犠牲者も出さずにすんだ事実を伝え、「リーダーに最も大事な資質は何か」を考えさせた。

●キャスターの役割は司会だけではない 自身の言葉で読み解き伝える努力を

 最後に集団的自衛権の行使などを認める安保関連法が施行された3月29日のニュースにも触れておく。日本の安全保障政策を大転換する法律が成立してから半年。効力を持つ日がやってきたが、多くの社はこのニュースを、かなりおざなりに扱った。おそらくは法律成立の時点で十分に伝えたので、さらに詳しく取り上げる必要はないとの判断だろう。だがこの法律は「国のカタチ」を変えるものであり、それだけに国会周辺には、法律の撤回を求めるデモ隊が押し寄せ、各地で違憲訴訟も準備されている。

 この事態をメディアが伝えないのでは、ことを静かに進めたい安倍晋三政権の思うつぼだ。にもかかわらず、しっかり取り上げたのは「報道ステーション」と「NEWS23」だけだと言えた。

 ところがその「NEWS23」も後半部分は、スタジオに招いた小野寺五典元防衛大臣と民進党の辻元清美議員の討論に委ねる手法をとり、「どちらの言い分に理があるか、聞いて判断してほしい」との姿勢をとった。そこまではまあいいとして、問題は新キャスターの星浩が、司会者の立場に徹していたことだ。複雑化し見えにくくなっている時代のなかで、キャスターには自分の言葉でニュースを料理し、味付けすることが求められる。それだけに、いかに不慣れとはいえ、キャスターが発言を控えるのでは、鼎の軽重を問われることになりかねない。この場にもし岸井成格と膳場貴子がいたらと、ついつい考えることになってしまった。

つじ・いちろう ジャーナリスト。元毎日放送取締役報道局長、大手前大学教授など。「対話1927」「20世紀の映像」でギャラクシー賞、「若い広場」「70年への対話」で民間放送連盟賞などを受賞。著書に『私だけの放送史』など。

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