●高市発言への反論は各局とも熱量不足 舌鋒鋭い関テレにあっぱれ
3月、人気のニュースキャスターが立て続けに交代し、ニュースの魅力が半減した。「クローズアップ現代」(NHK)の国谷裕子、「報道ステーション」(テレビ朝日)の古舘伊知郎、「NEWS23」(TBSテレビ)の岸井成格などであり、いずれもリベラルな発言が目についた人たちだけに、「何らかの政治的な圧力があったのでは」との憶測も浮上した。
だが古舘は「報道ステーション」出演最終回の3月31日、別れの挨拶で「そのようなことは一切ありません」と断言し、岸井も別の場で同様の発言を行った。しかしそうであっても、古舘が言うように、「いろんな発言ができなくなりつつあるような空気」が醸成され始めているのは事実だろう。それをふまえて考えれば、各氏の一斉の退陣は偶然の出来事と片付けられないところがある。また問題の高市早苗総務大臣の「電波停止」発言も、同じ空気のなかから生まれたものと言えるだろう。
それにしても解せないのは、高市発言に対しメディアが連帯して激しく反論せねばならないところ、多くの局が、形だけの扱いしかしなかったことである。おまけに3月24日、日本外国特派員協会で田原総一朗、鳥越俊太郎、岸井成格ら5人のジャーナリストが、高市発言を批判する記者会見を行った折には、これを短くであれ取り上げたのは、当日の「報道ステーション」と「NEWS23」だけであり、他はすべて扱いを見送った。
彼らの記者会見は、以前、日本記者クラブでも行われている。だから二番煎じでニュースに値しないとの判断があったのだろうが、ことは放送にとっての大事である。機会のあるごとに取り上げて、放送法制定の理念と経緯を伝え、「国家が番組内容に介入することは憲法違反だ」と、高市発言に抗議することが望ましい。だが「報道特集」(TBSテレビ)などごく一部の番組を除いては、そうした姿勢をほとんど示さなかった。何故なのか。もしメディアの側が萎縮している結果だとすれば、ジャーナリズム精神の放棄であり、視聴者の信頼を危うくしかねない事態である。