元朝日新聞記者 稲垣えみ子
この記事の写真をすべて見る

 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】これが問題のお札。いちいちすごい大金を扱っている気がして焦るので余計に頭が混乱

*  *  *

 私の海外旅行のスタイルはワンパターンで、エアビーで部屋を借りて1箇所に半月程度滞在し、ふだん東京で生活しているのと同じように過ごす(早起きしてヨガして小さい店で買い物して自炊してカフェで原稿書き)というもの。なので観光も外食も買い物もしないんだが、その場に応じてやり方は変わる。今回のハノイでは、普通に路上でご飯を食べる文化に合わせ、地元の人に混じり路上飯を食べた。

 ナーンて簡単に書いたが、これがもう本当に毎回四苦八苦。何しろ路上飯にはメニューも値段表示もなくシステムも全く不明。英語も通じない。なので勇気と笑顔とジェスチャーで何とかするってのは、シャイでカッコつけでしかも一人ぼっちの私には相当なハードルである。

 その上、私の前に大きく立ちはだかったのは「現金」であった。紙幣の数字がとにかくデカい。5万ドン札とか10万ドン札とかゼロが多すぎて何が何やら。日本円に換算するにはゼロを三つ取って5か6をかけるとネットに教えてもらったが、フタを開けたら脳が衰えすぎていて咄嗟に計算が全くできない。っていうか英語が通じない場合はそもそも値段がわからない。多めのお札を出せばいいかとも思ったが、物価が安すぎて相場不明なので超高額紙幣を渡して首を振られることも多数。

これが問題のお札。いちいちすごい大金を扱っている気がして焦るので余計に頭が混乱(写真/本人提供)

 結局どうしたかというと、いよいよ切羽詰まったら、財布を出して先方にそこからお札を抜き取ってもらうことにしたのだ。これを思いついたのは、何人かのおばちゃんが自分の財布を取り出して私が払うべき紙幣をひらひらと見せてくれたことであった。これは確かに一番わかりやすい! ってことで、ならば自分の財布から抜き取ってもらっても同じじゃんと思ったのだ。

 むろん最初は「ボラれる」ことを恐れた。だが日本であれ外国であれ、地元の人相手に地道な商いをしている人が、困っている客を騙すなんてないはずと思ったら、ビクビクせず財布を開くことができた。実際、後から調べても、相場以上のお金など一度も取られなかったのである。

AERA 2024年9月30日号

著者プロフィールを見る
稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

稲垣えみ子の記事一覧はこちら