AERA 2024年9月30日号より

 その異次元ぶりは過去の記録と比べるとより一層際立つ。村田さんによれば、これまで50本塁打以上を放ち盗塁が最も多かったのは、1955年のウィリー・メイズと2007年のアレックス・ロドリゲスで24盗塁。大谷の盗塁は群を抜いて多い。

「これまでシーズン50本塁打到達者は、大谷選手を除いて31人。49度達成されていますが、同時に20盗塁が記録されたのは4度だけ。パワーヒッターには基本的に盗塁の役割は求められていないんです。これまでまったく存在していなかった域に大谷選手はいるのです」

あくまでチームの勝利

 今季を振り返ってみれば、超大型契約での強豪・ドジャースへの移籍、妻・真美子さんとの結婚と吉報から始まり、右ひじの手術の影響で打者専念になることから打撃成績はどこまで伸びるのかとも期待された。そこに、長年通訳を務めてきた水原一平氏の違法賭博、不正送金事件が起きた。誰もが大谷のメンタル面を心配しただろう。

「今季開幕から1号本塁打まで9試合を要したこともあって、さすがの大谷選手でも精神的な影響があるのではないかと私も心配でした。ただ、昨季と同じように6月から調子を急激に上げ始めて、三冠王も狙えるんじゃないかというほどの好調さ。精神面の日本人離れした強さに脱帽しました」(福島さん)

 例年通り、安定して本塁打を量産し、開幕前後の騒動もどこへやら、周囲は大記録達成に向けて騒がしくなっていったが、大谷は記録のためにプレーしているわけではない。あくまでチームの勝利に貢献する。それを裏付けるような時期があったと村田さんは分析する。

「7月末以降、打撃の状態がよくなく打率も落ちていく時期がありましたが、時を同じくして盗塁数がぐっと伸びたんです。打てないなりにチームの勝利やプレーオフ進出という目標のために何ができるか。自身がやるべきことを積み重ねた先に『50-50』があったのだと思います」

 とはいえ、記録達成の試合後のインタビューで大谷は「早く決めたいというのがあった。一生忘れられない日になる」と語った。前人未到の道なき道を行く大谷だが、シーズンはまだ続き、「55-55」すら射程圏内。そして、その先には大谷が初めて臨むポストシーズンが待っている。ファンの楽しみはまだまだ尽きない。(編集部・秦 正理)

第1打席に二塁打を放つと早速三盗を決め、50盗塁の大台に乗せた

AERA 2024年9月30日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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