世界的音楽家の坂本龍一さんが3月28日、死去した。米アカデミー賞作曲賞を受賞するなどした。71歳だった。AERA 2023年4月17日号より紹介する。
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「誰もぼくの絵を描けないだろう」は、フォークシンガー友部正人の傑作アルバムだ。生ギターにハーモニカのシンプルな構成が多いが、はっとするようなピアノが流れる曲もある。主役の歌を邪魔しないが、しかし、「伴奏」というには歌心がありすぎるピアノ。音数の少ない旋律で、いつまでも消えない響きを聴き手の心に残す。
弾いているのは坂本龍一。1975年の作品で、坂本の録音としてはこれが最も古いものとされている。まだ東京芸術大学の院生だった。
■消えない響き
海外で人気を博したイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)から坂本を知った人が大多数だろうが、それ以前から、様々なジャンルのミュージシャンとの共演で、音楽通の間で名が通っていた。
「消えない響き」を探し求める点で、その後のキャリアも一貫していた。
1970年代末から80年代にかけてのYNOは、シンセサイザーがピコピコいうテクノポップなサウンドや、人民服のようなファッションで耳目を集めた。だが改めて聴き直すと、魅力の核にあるのは、坂本のキーボードが奏でる主旋律。「ライディーン」「テクノポリス」など、音数少なく、つい口ずさめるメロディーで、いつまでも耳に残る響きだ。
83年には大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」に出演した。デビッド・ボウイ、ビートたけし、それに坂本の3人の快演はいまもまったく色あせない。大島監督から出演オファーを受けたとき、坂本は「映画音楽もさせてくれるなら」と引き受けたという。そして、「戦メリ」の愛称で呼ばれる、あのタイトル曲である。シンプルで口ずさめる名曲。
2000年代に入ってからは、社会問題に積極的な発言をするようになった。反原発運動へも参加する。同時に「ツイッターでの発言に正確性がない」と、揚げ足取りのバッシングを受けるようにもなる。