批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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予想どおりメディアは自民党総裁選一色となった。一時は小泉進次郎氏で決まりかと思われたが、解雇規制緩和の主張で世論が離れた。石破茂氏と高市早苗氏が追い上げており、結果はわからない。政策論議が活発になったのは好ましい。
とはいえ、ひと月前に本欄で記したとおり、これはあくまでも自民党内の選挙だ。特定の党の党員だけが首相を選ぶことができる現状は民主主義として歪んでいる。政権交代可能な環境を取り戻すことが必須だ。
しかしその道は遠い。それを実感する出来事がまた起きた。ジャーナリストの青木理氏が12日、同じくジャーナリストの津田大介氏がホストを務めるネット番組で、「人々はなぜ自民党に投票し続けるのか」と問われて「劣等民族だから」と答え、炎上が続いているのである。
むろん発言は冗談だろう。しかしここで問題とされているのは、冗談の背景にある自民党支持者への明らかな蔑視だ。両氏はリベラルの論客として知られる。彼らが野党の衰えに苛立つのはわかる。裏金問題がほぼ忘れられた現状は確かに溜め息をつきたくなる。
けれども有権者にはそれぞれの事情がある。多様な判断を尊重しての民主主義だ。自分たちが勝てないのは有権者が愚かだからという認識で、政権が取れるはずもない。そもそも7月の世論調査では政権交代への期待が4割と報じられていた。それなのに立憲の支持率は低迷している。いま問われるべきは、人々がなぜ自民党に入れるかではなく、なぜ野党に入れないかのほうではないのか。
当該発言については、立憲の米山隆一衆議院議員がSNSで名指しを避けつつも批判し、火消しに回った。政治家として当然の判断だ。
近年リベラルの論客は過激な発言が目立つ。昨年4月には作家で法政大学教授の島田雅彦氏が安倍元首相の暗殺が成功してよかったと発言し、謝罪に追い込まれた。仲間内の喝采を目的とした非常識な発言は支持を狭めるだけだ。
筆者は津田氏と親しく仕事をしていたことがある。かつての友人としても、広がりのある議論を望みたい。
※AERA 2024年9月30日号