津田雄一著『はやぶさ2のプロジェクトマネジャーはなぜ「無駄」を大切にしたのか?』※Amazonで本の詳細を見る
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 佐伯さんは後に、私がはやぶさ2のプロジェクトマネジャーに就任した際、それまでは私が務めていたプロジェクトエンジニアの役回りを引き継いでくれることになるのですが、彼をつかまえて、取りあえず学生部屋の空いている机を使わせてもらい、宇宙研での日課を教えてもらいました。それが就職の第一日目。ですから、社会人となった私に職場での過ごし方を最初に教えてくれたのは、まだ学生だった佐伯さんということになります。
 

緊迫した現場で学んだ「想定外を想定する」ことの大切さ

 数日して、ようやく川口さんからメールがありました。「探査機チームに入ってもらうから内之浦に来るように」という指示です。何をするのかまったく見当はつきませんでしたが、取るものも取りあえず私は内之浦へ。

 内之浦宇宙空間観測所には直径34メートルのパラボラアンテナがあり、その下の建屋にロケット班とSA(科学衛星)班の部屋はありました。「SA班・津田」と書かれたバッジも用意されていて、私はようやく宇宙研の一員になったことを実感できましたが、具体的な役割が用意されていたわけではありません。何もかも初めて目にすることばかりです。打ち上げ前の準備で、みんなが忙しく動き回っている中で、ちょっと手が空いていそうな人を見つけては自己紹介をし、設備や作業を一から教えてもらいました。初仕事というより、小惑星探査の何たるかを学ぶために内之浦へ行ったようなものです。

 打ち上げ前の現場は緊迫していました。私が勉強してきた専門領域は軌道力学関係ですが、実際に宇宙へ飛ばすロケットや探査機の軌道計算がどうやって行われるのか、打ち上げの間際まで計算を続けている現場を見て、一つの正しい答えを導き出すだけが軌道設計に求められる作業ではないことを痛感しました。計画上の計算だけでなく、オフノミナル(正常ではない)の状況を想定しては、新たな計算が試みられます。後に、はやぶさ2のプロジェクトエンジニアになった私が、開発フェーズで「想定外を想定する」という言葉を使ったのは、内之浦での体験が原点にあったと言えるかもしれません。

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