若者がキャバクラに魅力を感じないのは当然

 しかし、時代は変わった。「軍隊のような厳しい縦社会」そのものが時代錯誤とされて、今やブラック企業や裏社会、職人の世界などほんの一部にしか残っていない。今の若者たちは上司から厳しく注意をされたら「それってパワハラですよ」と言い返すことができる。

 ジェンダー教育も進んだ。職場の飲み会で酒の勢いで、同僚の女性にお触りをしたり、お酌をさせたりするだけで処分が下る。では、そういう社会が「当たり前」の若い男性にとって、「夜の街」は楽しいだろうか。

 女性に酒を作ってもらい、「ねえねえ、今度はアフターしよう。お寿司でも食べに行こうよ」「え? 今月はもうちょっと指名取れないとまずいから、明日も来てボトル入れてくれたら考えようかな」なんてやりとりが、心から楽しめるだろうか。

 断っておくが「夜の街が悪い」などと言っているわけではない。キャバクラ、高級クラブ、ラウンジ、ガールズバーなどが「日本の飲酒文化」だということに異論はない。このような大人の社交場によって育まれた人間関係もあるし、さまざまなドラマもつくられた。こういう店があるおかげで「救われた」「今の自分がある」という方もたくさんいるだろう。

 しかし、どんなに綺麗事を並べ立てたところで、この世界に「相手がどんな男でもカネを払う客である以上、女性側も愛想良く接客しなくてはいけない」というセクハラ・パワハラ臭がつきまとうのは動かし難い事実である。

酒や歌を楽しむスナックに人が集まる

 それは体罰・パワハラが当たり前で生きてきた、われわれのようなおじさん世代からすれば、居心地が良く、自分よりも弱い立場の人に優位に立つということで一種の精神安定剤のような役割を果たした。

 しかし、ハラスメント防止やジェンダーについて、子供の時からしっかりと教育を受けてきた今の若者からすればこの「カネの力で女性に優しくしてもらう」的なコンセプトは違和感しかない。このギャップこそが、草食化とか不景気以前に、キャバクラやラウンジで高いカネを払って女性に酌をさせるような遊び方が、「オワコン」になっている根本的な原因である。

 実際、若い男たちのすべてが「夜の街」から離れたわけではなく、おじさん世代が若い時と別の遊び方をしている。例えば近年は、「スナック」が若者たちに非常に人気なのだ。知り合いのスナックも数年前まで客といえば、疲れたおじさんばかりだったが、今ではよく若い男女の団体客がやってきて、さながらカラオケボックスのようなノリで楽しんでいる。

 酒場は世相を映す。厳しい戦いに疲れた男たちを美しい「夜の蝶」が癒す、とういうスタイルの飲み屋は、昭和のパワハラ時代の徒花と言っていい。これからの時代はちょっと厳しいだろう。

 今後は、男と女も、圧倒的に増えていく高齢者も、そして外国人なども関係なく、酒や歌が楽しめる一体感のある「スナック的な業態」が増えていくのではないか。

(窪田 順生 ノンフィクションライター)

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