ある企画を終えた松川さんが、入社1年目の若手社員2人を誘って飲みに行った時のこと。お酒を飲みながら3人で楽しく会話をしていたつもりだったが、ふと気がついた。
「もしかして僕がずっとしゃべっちゃってる?」
元来おしゃべり好きな性格。相手が普段接点のない後輩たちだったことも相まって、つい話しすぎてしまった。まずいと思った松川さんは、
「ごめんごめん、俺しかしゃべってないけど大丈夫?」
と気遣った。すると、後輩たちから意外な言葉が返ってきた。
「大丈夫です、そのまま続けてください!」
後輩いわく、他の会社に就職した友達からは、「おっさんと飲みに行くとパワハラがうざい」「話が長い」という話をよく聞かされている。でも、自分たちはそんな経験をしたことがない。「おっさん」がくだをまいた話も聞いたことがないから、アツく語る松川さんが珍しく、楽しかったのだという。
「めっちゃ面白いことを言うなと思って、気持ちよくくだをまかせていただきました」
と松川さんは笑う。そんな冗談を交わせる間柄だからこそ成り立つ関係とも言えるが、若手も上司とのコミュニケーション自体が面倒だというわけではないらしい。
「おじさんの武勇伝を一方的に聞かせるわけでもないし、そこはバランス感があるんじゃないかとは思います。あと、大切なのはお互い『自立』することです」(松川さん)
飲み会に誘うのにも勇気がいる時代。だからこそ、誘われる側も時には断る勇気を持つこと。もし断られても落ち込まず、違うコミュニケーションの取り方を考えてみること。その繰り返しが世代の壁を埋める近道になる。(編集部・福井しほ)
※AERA 2024年9月23日号より抜粋