プーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
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 ロシア軍がウクライナ東部に攻勢を仕掛けている。2022年にロシアによるウクライナ侵攻が起きて2年以上が過ぎたが、終わりが見えるような状況ではない。ソ連崩壊後、民主国家として歩み始めた新生ロシアは、なぜ隣国を侵略できるような国になってしまったのか。プーチン大統領やロシアからはいったいどういった世界が見えているのか。朝日新聞論説委員の駒木明義氏がその内情に迫る。(新刊『ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか』(朝日新書)から一部抜粋、再編集した記事です)

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 プーチン氏は、2022年のウクライナへの全面侵攻の大きな理由として、米国主導の軍事同盟であるNATOが、冷戦終結後も加盟国を拡大し、ロシアの安全が脅かされているということを挙げている。

 しかし、それだけではない。隠された2番目の理由がある。それは、ウクライナをロシアの一部だと考えて、ロシアから離れて主権を主張することは認められないという、プーチン氏独自の(とはいえ、ロシアでは多くの人々に共有されている)世界観だ。

 それに加えて、プーチン氏の侵略には第3の理由があることが、開戦後にはっきりしてきたように思う。それは、欧米のリベラルな価値観を退廃として敵視し、今回のウクライナ侵略を「伝統的な価値観を守るための正義の戦い」と位置づける考えだ。

 この点に関連して、22年2月24日の開戦演説で、プーチン氏は以下のように米国を批判した。

「私たちの伝統的な価値観を破壊しようとする試み、私たちロシア国民を内側からむしばむ偽りの価値観や彼らが自分側の国々に乱暴に植え付けてきた志向を、私たちにも押しつけようとする試みが続いていた。それは、人間の本性そのものに反するゆえ、退廃と退化に直接つながる」

 プーチン氏はこのときすでに、米国の「偽りの価値観」と自分たちの「伝統的な価値観」を巡る戦いという側面があることを意識していたのだ。

 さらに異様に感じられたのは、同年9月30日、ウクライナの東部と南部の4州を一方的にロシア領に編入することを宣言した際の演説だった。

「(西側のエリートによる)人間性の全否定、信仰と伝統的価値の破壊、自由の抑圧は、明白な悪魔崇拝の特徴を帯びている」

「悪魔崇拝(ロシア語でсатанизмサタニズム)」という言葉は尋常ではない。どこか神がかりのような印象さえ受ける。実際、プーチン氏は、自分を正義の守護神であるかのように信じている節がある。

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プーチンが守ろうとする価値観とは